2018年7月、福岡県川崎町の自宅で生後11か月の松本笑乃ちゃんが頭部に強い衝撃を受けて死亡した。 母親の松本亜里沙さん(29)が傷害致死の疑いで逮捕・起訴されたのは笑乃ちゃんの死から4年後、2022年のことだった。 裁判が始まったのは2025年11月。 争点は「松本さんによる暴行の有無」だった。 女の子の健やかな成長と幸せを願う「ひなまつり」の日、福岡地裁は「本件公訴事実については犯罪の証明がない」として、松本さんに無罪判決を言い渡した。 「素直に今はほっとしているとしか言えません」と話した松本さん。 約3年半にわたって拘置所に勾留されていたことについて聞かれると「納得いかないです。戻っては来ない時間なので」と胸の内を明かした。 ※この判決は前・後編で掲載しています。 前編から読む)【無罪判決】「病気のせいで娘の命を奪ったと思いたくなかった」 11か月の娘が頭部外傷で死亡 4年後に逮捕された母親(29)の裁判 争点は「母親の暴行の有無」【判決詳報】 ■裁判所の判断「てんかん発作による事故の可能性が残る」 3月3日の判決で福岡地裁(鈴嶋晋一裁判長)は 「本件において、被告人の長女である笑乃ちゃんが、公訴事実記載の日時、場所において、公訴事実記載の傷害を負い、同傷害により死亡したことに争いはない」 「本件の争点は、被告人が、笑乃ちゃんに対し、公訴事実記載の暴行を加えたか否かである。弁護人は、被告人が故意による暴行を加えたことはなく、被告人がてんかん発作に起因して笑乃ちゃんを落下させ又は笑乃ちゃんともに転倒するなどの事故により、笑乃ちゃんが前記傷害を負った可能性があると主張する」 「当裁判所は、被告人が、笑乃ちゃんに対し、問違いなく公訴事実記載の暴行を加えたとはいえないと判断した」 と述べた後にその理由を説明した。 ■裁判所が認定した松本さんのてんかんの特徴と発作の態様 福岡地裁は、松本さんが罹患した側頭葉てんかんの特徴について詳細に認定した。 松本さんは2012年に側頭葉てんかんと診断され、その後手術を受けた。 しかし2017年、自宅での生活を始めた後にてんかんの発作が再発した。 側頭葉てんかんの特徴として、裁判所は以下の点を認定した。 ・側頭葉起源のてんかん発作が起きた場合には、意識がなくなり、発作中の出来事を記憶することもできない。 ・意識がなくなる時間は2〜3分程度が多い。 ・松本さんは発作が起きる際に前兆を感じることができないまま発作に至る傾向にあった。 ・発作が終わった後も直ちに意識が回復するわけではなく、意識がもうろうとしながら徐々に意識が回復するのが通常。 ・記憶機能は意識回復過程の終盤で回復することもあるため、発作後、例えば赤ちゃんを抱っこするなど、一見普通の行動をとることができていても記憶には残っていないこともあり得る。 ・発作が起きた場合には、逆行性健忘により、発作前の記憶もなくなることがある。