落とし物が返ってくる国-。日本の治安の良さを象徴する言葉だが、その「当たり前」は地道で実直な作業によって維持されている。落とし物に関する業務に長年携わってきた大阪府警会計課監査室長、千草(ちぐさ)恭子さん(60)が今春、定年退職する。無くしたものが手元に戻る。その安堵(あんど)感を通して人々の安心安全を守り続けた千草さんは、「府民の笑顔を見るのが一番うれしい」と42年を振り返った。 警察署では、届けられた落とし物の受理から持ち主への返還まで一連の業務を行う。単に持ち主が現れるのを待つだけではなく、中身から持ち主を特定して警察署から連絡することもある。 千草さんは昭和59年に府警に採用され、落とし物業務を担当したのは平成12年の寝屋川署から。窓口には多くの府民が訪れ、中には不安そうな表情を浮かべる人もいた。だが、落とし物が届いていることを伝えるとパッと笑顔になるあの瞬間。府民と接する現場だからこそ、より一層「喜んでもらいたい」と一日でも早く持ち主に届けられるよう力が入った。 こうした業務を統括する府警本部会計課に所属していた平成19年、遺失物法が改正された。それまで書類で管理されていたが、府内全域に届けられた落とし物を一括で検索できるシステムの導入に携わった。 この法改正により、鉄道会社や大型商業施設は、施設内の落とし物を警察署に移すことなく、各自で保管することが可能となった。こうした落とし物も検索対象とするには警察の新システムとの連携が必要だったが、対象の施設を回って協力を仰いだ。「府民にとって一番いいシステム」にするためだった。 「業務の効率化こそ、府民サービス向上につながる」。その思いで業務改革も行った。 拾得物の保管期限が過ぎれば廃棄や売却する規定となっているが、その仕分け作業が現場の大きな負担となっていた。昨年1月、仕分けや売却作業を一括して業者に委託するようにした。 千草さんは警察官ではなく「警察職員」だ。警察官のように容疑者の逮捕や交通違反の取り締まりなどは行わず、会計やシステム管理など事務作業を中心に担う。