「人質司法批判、受けとめる」現役裁判官が取材に語る 見えぬ改善策

「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件などを受け、裁判所の保釈の運用が批判されるなか、東京地裁の所長代行を務める平出(ひらいで)喜一裁判官(57)が朝日新聞のインタビューに応じた。無罪を主張すると保釈が認められにくく身体拘束が長引く実態への批判について、「真摯(しんし)に受けとめる。これまでの実務を顧みて、改めるべき点は改める必要がある」と述べたものの、すぐには改善できない難しさがあると釈明した。 現役裁判官が実務に関して取材に応じるのは異例だ。裁判官は政府や国会だけでなく、裁判所組織からも独立し、なにものにも影響されずに判断を下す立場であるため、取材に応じることはほとんどない。 保釈に関しては最高裁が1月、裁判官約70人が参加した研究会を開くなど、改善に向けた動きがある。平出裁判官は「裁判官が何を考えているのかが大変見えづらく、国民に説明ができていないため、取材を受けたいと考えた」と述べた。現役の幹部の立場から現状への危機感を示した形だ。 ■無罪推定と保釈「必ずしも関係ない」 保釈は、逮捕され、警察署や拘置所に勾留された被告が起訴された後、保釈金を預けることで拘束を解かれる制度。裁判官が可否を判断する。 法律上、保釈の請求があれば許可するのが原則だが、関係者との口裏合わせといった被告による「証拠隠滅」のおそれが一定程度あると判断すれば、却下できる。判決前なのに行動の自由を奪われることは、有罪判決が確定するまで被告を無罪の人として扱う「無罪推定の原則」に反するとの指摘もある。 この点について、平出裁判官は「無罪推定と保釈の議論は必ずしも関係ない。公正、迅速な裁判のために必要であれば、身体拘束はせざるを得ない」との見方を示した。 司法統計によると、地裁での一審判決までに保釈された被告の割合は、24年はおよそ32%。10%台だった1990年代後半からは上がったが、起訴内容を否認すると、保釈が認められにくくなる傾向は続いている。 ■「もう少し早められないか」 2020年に不正輸出容疑で社長らが逮捕・起訴され、翌年に起訴が取り消された大川原化工機冤罪事件では、勾留が約1年に及んだ。逮捕された元顧問の男性は胃がん発覚後も保釈が認められないまま亡くなり、保釈を繰り返し却下した東京地裁の対応が批判された。 こうした身体拘束をめぐる状況について、平出裁判官は、改善が必要な課題であるという認識を示しつつも、すぐには実現できない難しさがあると説明した。 まず、大川原化工機事件の身体拘束に関する判断について、平出裁判官は「個別の事件についてはコメントできない」とした。こうした返答になる理由として、「裁判官は憲法に基づき、独立して判断する。裁判所が組織として個別の事件を検証して報告書を出すと、裁判官がそれに拘束されるのかという別の問題が生じる」と述べた。 ただ、大川原事件のように「証拠が多く争点が複雑な経済事件で、否認している被告の保釈をどう考えるかは議論が深まってこなかった」とも指摘。「逃亡の恐れが低い事案なら、保釈時期をもう少し早められないか、という問題意識が私自身にもある」と述べた。 否認すると勾留が長引くことは、保釈を得るための「うその自白」につながりかねないとして、刑事弁護人らは身体拘束の運用を「人質司法」と呼んで批判してきた。 こうした批判に対し、平出裁判官は「裁判官が本気で互いに議論を重ねて、新たな運用を作りあげていくことが重要だ」と強調した。 ■東京拘置所を視察 東京地裁では24年から、争点が複雑な一部の事件で、保釈の判断をする裁判官を原則として固定する運用を始めた。被告が複数回にわたり保釈を求めた場合、従来は当番制だったため、裁判官が経緯を一から把握する必要があった。同じ裁判官が担当することで、判断の質の向上や効率化につなげたいという。 今年3月には東京地裁や高裁、簡裁の裁判官らが東京拘置所を訪れ、医療を担当する部署を視察した。病気を抱えた被告の勾留や保釈の可否を適切に判断する目的がある。大川原化工機冤罪で、胃がんが判明した元顧問の保釈を却下し続けた経緯を踏まえたとみられる。 平出裁判官は「裁判官の判断で勾留する以上、拘置所がどういうところかは見ておく必要がある。可能であれば拘置所全体の視察を含め、今後も続けたい」と話した。 保釈の判断の改善について、平出裁判官は「一人ひとりの裁判官が自律的に議論をして、最終的には裁判官集団として変わっていくことが大事だ」と述べた。ただ、改善に向け、どのような議論を進めていくべきかについては、具体的に示さなかった。 平出裁判官は1994年に任官し、刑事裁判の経験が長い。2023~24年には、東京地裁で勾留や保釈の判断を専門的に担う「令状部」の部長を務めた。(森下裕介、米田優人)

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