再審見直し法案、再修正で妥結か断念か 知っておきたい論点と見通し

有罪が確定した刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しに向けた議論が紛糾している。法務省がまとめた政府の法案に、与党の自民党から強い異論が出ているからだ。修正を重ねて妥結できるのか、法案提出の断念か――。政府は月内に了承を得たい考えで、今週が山場となりそうだ。(二階堂友紀) ■袴田巌さんの無罪から、超党派議連、法制審へ 再審制度は、通常の刑事裁判で誤って有罪にされた人を救うための「最後のとりで」だ。 無実を訴える人は新たな証拠を添えて、裁判のやり直しを求めることができる。 再審を開くかどうかは、再審請求審という非公開の手続きで決まる。ただ、いまの刑事訴訟法に再審関係の規定は乏しく、担当する裁判官によって再審開始の可否が左右される「再審格差」があると指摘されてきた。特に、検察が重要な証拠をなかなか開示しないことや、審理が長期化して冤罪(えんざい)被害者の救済が遅れていることが問題になってきた。 1980年代に四つの死刑事件で再審無罪が相次いで確定し、再審制度見直しの機運が高まったこともある。だが48年の現行法制定以来、改正は実現してこなかった。 再審請求は年間200~250件あるが、ほとんどは明らかに理由がない訴えだとされる。再審請求中は死刑が執行されないとみられていた時期もあり、「死刑を回避するための請求が多い」(ベテラン裁判官)との見方もある。このため法務省内には真に救済すべき事案は少なく、再審制度を見直す必要はないとの意識が強かった。 流れを変えたのは、袴田巌(いわお)さん(90)だ。静岡一家殺害事件で死刑が確定していた袴田さんは24年、再審無罪とされた。逮捕から58年、死刑確定から44年。この間、身体の拘束は47年7カ月に及び、袴田さんの精神をむしばんだ。 再審制度の見直しを求める世論が再び高まる中、自民党は袴田さんの再審無罪に先立つ23年から勉強会を始めた。24年には柴山昌彦・元文部科学相が会長、井出庸生・党国対副委員長が事務局長となり、超党派の国会議員連盟を立ち上げた。議連は25年3月、再審開始決定に対する検察の不服申し立て(抗告)の禁止や、幅広い証拠開示規定などを明記した議員立法の要綱案をまとめた。 その3日後、当時の鈴木馨祐(けいすけ)法相が法制審議会(法相の諮問機関)に見直しを諮問。政府の検討が立法府に遅れて始まった。 専門の部会で刑事法学者や裁判官、検察官、弁護士らが18回の議論を重ね、今年2月に見直し案を答申。抗告禁止は見送られ、証拠を開示する範囲も限定された。弁護士らは抗告禁止や幅広い証拠開示などを主張したが、法制審の中では少数派だった。 法務省は答申をもとに政府法案をまとめたが、閣議決定して国会に提出する前に、与党の了承を得る手続きがある。「抗告禁止」と「証拠開示」という二大論点で火種を抱えたまま、自民党の事前審査が始まった。 ■「検察の抗告禁止」求める声の背景とは 政府の法案を事前審査する自民党の部会は3月24日に始まり、今月15日までに9回開かれた。初回から紛糾が続き、議論が4時間を超えた日もある。 「一ミリも私たちの言うこと聞かないじゃないですか!」。6日の会合の冒頭、稲田朋美・元党政調会長が声を上げる映像がSNSで拡散し、世論の注目が高まった。 最大の焦点は検察の抗告禁止の是非だ。議連案を中心になってまとめた井出氏は初回の会合後、「(再審無罪事件に対する)反省の証左が抗告禁止だ」と宣言した。 8日にはSNSに長文を投稿し、「抗告が短くない年数、再審開始を延ばしてきた現実があり、しかも多くは再審無罪に至っている」と指摘。元被告側が申し立てた再審請求は99%超が棄却されているとしたうえで、「1%に満たない、冤罪かどうかを確認する必要性が極めて高い事件を適正に救済したい」と訴えた。 刑訴法は裁判をやり直す要件として、「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」という高いハードルを設けている。それを超えて裁判所が再審開始決定を出しても、検察には高裁への即時抗告、最高裁への特別抗告と2度の不服申し立ての機会がある。 法務・検察幹部は「検察には再審開始決定に反駁(はんばく)する責任がある」と言う。法制審では検察官の委員が抗告するかどうか「十分かつ慎重な検討」をしていると主張したが、機械的に抗告しているとの批判は根強い。 法制審に弁護士の委員が提出した資料によると、殺人などで再審無罪が確定した15事件のうち、検察が抗告しなかったのは2件にとどまるという。 たとえば袴田さんの場合、静岡地裁が14年に再審開始決定を出した後、検察が抗告して再審を開くかどうかの争いが続いた。死刑確定から再審無罪までの44年のうち、9年が抗告の審理に費やされた。抗告が一因で「人生を丸ごと毀損(きそん)するような事態になっている」(稲田氏)と批判されているのは、このためだ。 禁止論の背景には、検察への強い不信感もある。昨年、前川彰司さん(60)が再審無罪とされた福井女子中学生殺害事件では、一審段階から有罪を揺るがす証拠が存在した。検察はそれを開示しないまま抗告し、1回目の再審開始決定が取り消されている。 法制審の事務局を担い、政府法案をまとめた法務省は、検察官が要職を占める組織だ。それだけに、自民党内からは「法務省が何の反省もなく押し切るのは思い上がりだ」(鈴木宗男参院議員)との批判が出ている。 ■「どうしても禁止したいなら」法務・検察の本音は

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする