タイ・バンコクで2026年5月、貨物列車が路線バスに衝突する事故が発生し、8人が死亡、30人以上が負傷。列車運転士には無免許運転や薬物使用疑惑も浮上している。 さらに事故からわずか3日後、現場近くで再び列車事故が起きた。背景には、慢性的な渋滞や線路への無理な進入など、タイ社会に根付いた交通環境上の課題もある。 ◆逃げ場のない踏切でバスが衝突・炎上 5月16日土曜日の夕方、首都バンコクの中心部。鉄道と幹線道路が交わり近くには大きな交差点もある踏切で事故は起きた。 当時、踏切周辺は激しい渋滞に見舞われていた。線路上に取り残されていた路線バスに、走行してきた貨物列車が衝突。バスは炎上し、周囲の複数の車やバイクも巻き込まれた。 事故の目撃者は、その瞬間をこう振り返る。 「ドン!という大きな音がして、バスが列車に引きずられながら燃えていた」 「バスから投げ出された多くのけが人がいて…誰から助ければいいのか分からなかった」 この事故で、バスに乗っていた8人が死亡し、30人以上が負傷。 タイ国内では極めて深刻な踏切事故として衝撃が広がった。 ◆現場で目にした惨状 記者が現場に到着した際、周囲には焼け焦げた臭いと、騒然とした空気が漂っていた。サイレンが鳴り響く中、規制線の向こうでは消防隊員が懸命に放水を続けていた。 窓ガラスがひび割れた貨物列車。その傍らには、真っ黒に焼け焦げた路線バス。SNS上には、炎と黒煙に包まれる現場の映像が次々と投稿された。 当初は、踏切の遮断機が下りていなかったことが事故原因の一つと報じられた。しかし、その後の捜査で、さらに深刻な問題が浮かび上がった。 ◆運転士に無免許疑惑や薬物反応も 貨物列車の運転士は過失致死などの疑いで逮捕され、尿から「薬物反応」が検出された。さらに、必要な運転資格を持っていなかった疑いも浮上しているという。 地元メディアによると、非常ブレーキは衝突のおよそ100m手前で作動していた。大量のコンテナを積んだ列車は、時速35kmでバスに突っ込んだという。 事故原因をめぐる捜査は今も続いている。ただ、現地を歩くと、問題は運転士個人だけにとどまらない可能性も見えてきた。 ◆渋滞都市バンコクの危険な運転文化 事故当時、踏切では渋滞した車列が線路上まで伸びていた。タイでは、車両が交差点や踏切に進入したまま立ち往生する光景は珍しくない。 特にバンコクでは慢性的な交通渋滞が深刻だ。 車やバイクがひしめく道路では、赤信号でも交差点へ進入する違反や、車間を詰める運転も見られる。 12年前にアメリカから移住したという男性は、タイの交通事情に驚きを隠せない。 「バス運転手は赤信号も気にしない。『みんな自分を避ける』と思っている。でも列車は止まれない」 ◆事故後も変わらない踏切の渋滞 後日、事故処理を終えた現場を取材班が再び訪れた際、踏切周辺では依然として慢性的な渋滞が続いていた。 事故当時のように、渋滞のため車やバイクが線路上に立ち往生。それでも、乗用車やバイクは車間距離を詰めながら線路の手前までにじり寄る。 これでは遮断機が鳴り始めても、線路上に残った車やバイクは身動きがとれず、同様の事故が起きかねない。 焼け焦げた臭いがまだ残る現場で、人々は何事もなかったかのように行き交っていた。 悲惨な事故の記憶と変わらない日常が、同じ場所に同居していることに違和感を抱かざるを得なかった。 ◆事故から3日後…わずか800m先で再び列車事故 そして、事故からわずか3日後。その近くで、再び列車事故が起きた。 5月19日午前、事故現場からおよそ800m離れた線路沿いで、バイク配達員の男性が列車と接触し重傷を負った。 地元メディアによると、男性は用を足そうとバイクを止め、線路内に立ち入った際に列車と接触したという。 イヤホンとフルフェイスヘルメットを着用していて、列車の接近に気付かなかった可能性があると報じられている。 近くで屋台を営む女性は、その瞬間を目撃していた。 「彼はスマホを見ながら線路を渡っていた。列車はずっと警笛を鳴らしていたのに、左右も見ずに歩いていった」 線路脇には、子どもでも簡単に乗り越えられそうな高さ40cmほどのコンクリート塀が並ぶ。 この地域では、線路を生活導線として住民が横断する光景が日常化しているという。 事故現場近くの警備員も、「先日の事故があったばかりなのに、また起きた」と不安を口にした。 ◆問われるタイの交通課題 タイ政府は危険踏切の点検や鉄道関係者への検査強化を進めているほか、現地では、安全意識や交通環境の改善を求める声も広がっている。 もちろん、今回の2つの事故は発生状況も原因も異なる。 ただ、現場を取材して感じたのは、危険と隣り合わせの交通環境が日常の中に存在している現実だ。 タイでは交通事故による死亡率が高く、WHO=世界保健機関も道路安全対策の必要性をたびたび指摘している。 人々の生活の中に危険が溶け込んだままであれば、同じような事故は再び起きかねない。 (執筆:FNNバンコク支局 関隆磨)