「1人で診るのが当たり前になっていた」 診療を装って女性患者4人にわいせつ行為をしたなどとして、中東遠総合医療センター小児科医の被告(44)が強制わいせつなどの罪で有罪判決を受けた事件。被告と同じ職場で働いていた看護師は、同センターの聞き取り調査に「看護師の立ち会いなく診療をしていたことに違和感を抱かず、患者から相談を受けたこともなかった」と振り返った。 被害者は、看護師の人数が減った午後6時以降に多かった。被告から「後はやっておくから、帰っていいよ」と言われ、先に帰宅させようとするやりとりがあったが、看護師は「負担を減らそうと気を遣ってくれている」と考えたという。被告にとって、“密室”の環境が出来上がっていった。判決で認定されただけでも、5年以上にわたり計52件のわいせつ行為を重ねた。 被告は小児科で診療部長の肩書を持つ幹部医師。静岡新聞社の取材に応じた被害女性の40代の母親は「診療の担当は(被告の)先生だと伝えると、優先的に中待合室に通された。偉い人だから、特別扱いなのかな」と感じた。 小児科は、中待合室の周囲に複数の診察室があり、室内はパソコンデスクやベッドなどが置かれた一般的なつくりだ。診察室までは保護者も一緒に入れた。 一方、触診などのためのカーテンで仕切られたベッド回りの空間は、娘だけが入るように求められた。被告は、子どもから学校や友人の話を丁寧に聞き、一緒に大笑いするなど親しみやすい人物に映った。母親は「まさかカーテンのすぐ向こう側で、わいせつ行為に及んでいたとは」と唇をかむ。 逮捕後には被告の診察を受けていた患者らが、無罪や不起訴になった場合には職場復帰を求める動きを起こした。署名は700人を超えるなど、いかに周囲の信頼を得ていたかをうかがわせる。しかし、その後、強制わいせつ容疑などで計5回の逮捕。患者を裸にし、胸を触る様子を自らのスマートフォンで撮影した大量の動画が動かぬ証拠となり、新たな被害が次々と明るみに出た。 ◇ 中東遠地域の医療を担う基幹病院で発生した診療を装ったわいせつ事件。静岡地裁浜松支部は9日、小児科医の被告に懲役7年6月の判決を言い渡した。卑劣な行為は、なぜ長年にわたり発覚することなく繰り返されたのか。事件の背景や再発防止策を探る。