イギリスの作家マイケル・ボンドによる児童文学を映画化したシリーズ3作目『パディントン 消えた黄金郷の秘密』(公開中)。主人公はペルーからロンドンにやって来たクマのパディントン。モフモフな見た目は愛らしく、素直で人を疑うことを知らず、親切心にあふれた紳士然としたキャラクターも人気の理由となっている。過去シリーズを振り返りながら、パディントンの魅力を再確認したい。 ■マーマレードが大好きなクマ、パディントンが憧れのロンドンへ ペルーのジャングルを訪れたイギリス人探検家が、知性を持ったクマの夫婦と遭遇するところから始まった『パディントン』。双方は意気投合し、探検家は人間の文化や故郷であるロンドンのすばらしさ、そしてマーマレードジャムの美味しさを伝え、いつか再会することを誓って去っていった。 それから40年が経ち、クマの夫婦、パストゥーゾおじさん、ルーシーおばさんと暮している子グマのパディントン。2人からロンドンについて聞かされ、特にルーシーおばさんの作るマーマレードジャムには目がなく、オレンジのシーズンが来るたびに大はしゃぎしている。しかしある日、突然の大地震が発生し、パストゥーゾおじさんが死んでしまう。 悲しみに暮れるなか、おばさんが老グマホームに入居することを決め、パディントンは憧れていたロンドンに旅立つ決意をする。持って行くのは、パストゥーゾおじさんの形見である帽子にスーツケースに入れた大量のマーマレードジャム。そして、帽子の中にはおじさんに倣って非常食のマーマレードサンドを忍ばせている。 ■マナーを大切にし、挨拶やコミュニケーションを欠かさない パディントンの魅力といえば、素直な性格と人と積極的に関わろうとする前向きさ。探検家が残した蓄音機からロンドンで暮らすためのマナーを学んでおり、人とすれ違った時は挨拶し、会話に詰まれば天気の話をすればいいという教えを、早速ロンドンのパディントン駅でも実践する。 ところが、忙しそうに行き交う人々はパディントンを無視。途方に暮れるなか、大切なマーマレードサンドをハトに上げようとする優しさも見せている。そんな時、ヘンリー(ヒュー・ボネヴィル)とメアリー(サリー・ホーキンス)の夫婦、2人の長女ジュディ(マデリン・ハリス)と長男ジョナサン(サミュエル・ジョスリン)らブラウン一家と出会い、極度の心配性であるヘンリーから煙たがられつつも、バード夫人(ジュリー・ウォルターズ)も暮らす彼らの家に泊めてもらうことに。この時、英語の名前が必要ということで、メアリーから「パディントン」と命名されている。 ■トラブルメーカーとしての一面も ジャングルしか知らないパディントンにとって、ロンドンでの暮らしはなにもかもが初めてのことばかり。長旅の疲れを癒すため、お風呂を勧められた際には、歯ブラシで耳掃除をし、マウスウォッシュを飲み物だと思ってゴクゴクと飲んでしまう。カーッとなった喉を和らげようと、便器に顔を突っ込むパディントン。今度は便器を詰まらせて水道管を破壊し、どんどん浴室に水が溜まっていく。天井近くまで水が迫ったところで、ヘンリーが扉を開け、家を水浸しにしてしまうのだった。 ■親切心を持って行動。一方で失礼な人には… 探検家に会えば住む家を与えてくれるかもしれない。彼の情報を得るため、メアリーと共に骨董品店を営むサミュエル・グルーバー(ジム・ブロードベント)のもとを訪れたパディントンは、店内で怪しい動きを見せた男が財布を落として去っていくのを目撃する。財布を返すため、走って逃げる男を追っているうちに街中は大騒動に。なんとか男に追いついたところ、その正体がスリの常習犯であることが発覚。一躍、パディントンは街のヒーローになるのだった。 この活躍もヒーローになろうとしたのではなく、あくまでパディントンが持つ親切心がもたらした結果。一方で、優しいだけでなく、失礼な人にはちゃんと間違いを指摘できる芯の強さも持っている。ヘンリーが探検家の存在を疑った際に、じっと彼を睨めつけるパディントン。これは“にらみの目”と呼ばれていて、向けられた人はだんだんと体が熱くなり、緊張や不安で気分が悪くなってしまうのだ。 ■ブラウン一家と本当の家族に 探検家の名前がモンゴメリー・クライドだと判明。しかし彼は、珍しいクマを捕獲して剥製にしなかったことから地理学者教会から追放されていた。そのことで極貧生活を強いられた彼の娘であり、自然史博物館の剥製部長を務めるミリセント(ニコール・キッドマン)がパディントンを捕らえて剥製にしようとする。 自然史博物館へ駆けつけたブラウン一家の協力もあり、なんとか脱出に成功したパディントン。再び銃を持ったミリセントに追い詰められるが、あれだけ追い出したがっていたヘンリーが「種族が違っていようが、マーマレードぐせが悪かろうが、パディントンは家族だ!」と立ち向かっていく。かくして、パディントンはブラウン家の一員として、晴れてロンドンで暮らすことになるのだった。 ■離れて暮らしていてもおばさんを想い続けるパディントン ロンドンでの暮らしにすっかりなじんだパディントンの活躍を描く続編『パディントン2』(17)。ブラウン一家はもちろん、ご近所さんともすっかり仲良しで充実した日々を送っているが、ペルーに残してきたルーシーおばさんのことが気がかりだった。 ある日、グルーバーさんの骨董品でロンドンの街を描いた飛びだす絵本を見つけたパディントン。これがあれば、ロンドンに来たがっていたルーシーおばさんに街の様子を見せてあげられる。おばさんの100歳の誕生日プレゼントとして贈ろうとするも、絵本はとても高価でコイン1000枚の価値があった。諦め切れないパディントンは働いて稼ぐことを決める。 ■飛びだす絵本を買うため、働くことにするが… まずは理髪店の掃除係として働き始めたパディントン。店主の留守中にお客がやって来て、「きれいにする係(=掃除係)です」と伝えたものの、身だしなみを“きれい”にしれくれると勘違いした客にそのまま散髪を頼まれ、バリカンで大胆に剃り上げた挙句、店内もめちゃくちゃに…。当然、すぐにクビになってしまう。 めげないパディントンが次に始めたのは窓拭きの仕事。梯子が収められた特注のスーツケースも使って、ご近所中の窓をきれいにして回っていく。最初は失敗の連続で今回もダメかと思いきや、意外にも彼の仕事ぶりは好評。気難しいランカスター大佐(ベン・ミラー)の汚れた窓もピカピカにし、室内に日光が差し込むようになったことで大佐の心まですっかり明るくさせてしまう。 ■窃盗犯に間違われて逮捕されてしまう 順調にコインが貯まっていた矢先、骨董品店に泥棒が入り、絵本が盗まれてしまう。犯行を目撃したパディントンは泥棒を追いかけるも取り逃がし、さらに犯人と間違えられて逮捕される。 絵本を盗んだのは、ブラウン家の近所に暮らす俳優のフェニックス・ブキャナン(ヒュー・グラント)だった。かつては有名な舞台俳優だったが、いまはすっかり落ちぶれ、ドッグフードのCMにしか出演していない。絵本には元の持ち主が隠した財宝の在りかを示すヒントが記されており、そのことを知っていた彼はかねてから手に入れようとしていたのだ。 ■刑務所でも囚人たちと仲良しに 裁判の担当判事が理髪店で髪型をめちゃくちゃにしてしまった客だったこともあり、有罪となって刑務所へ収監されたパディントン。さすがに落ち込むが、めげずにほかの囚人たちに話しかけ、仕事にも取り組もうとする。ところが、みんなの囚人服を赤い靴下と一緒に洗濯したため、色が移って服がピンク色になったことで囚人たちから睨まれてしまう。 さらに、所内一番の凶暴な囚人で調理担当のナックルズ(ブレンダン・グリーソン)に向かって、堂々と料理が不味いことを指摘して彼の逆鱗に触れてしまう。「クマのパイにしてやろうか」と脅されるが、とっさに隠し持っていたマーマレードサンドを食べさせたことで、料理の腕を認められて助手に選ばれる。マーマレードジャムを振る舞うだけでなく、ほかの囚人たちとも一緒にスイーツを作るなど、刑務所でもすっかり人気者となるのだった。 ■真犯人がブキャナンだと判明!今回もヘンリーの名言が飛びだす ブラウン一家は絵本を盗んだ犯人がブキャナンであることを突き止めるが、捜査に夢中だったあまりパディントンの面会時間を忘れてしまう。家族に見捨てられたと思い込んだパディントンはナックルズらと刑務所を脱獄。ロンドンの公衆電話から一家へ別れの挨拶をしようとするが、そこで真犯人の正体を聞かされ、財宝が移動遊園地のオルガンの中にあり、オルガンを乗せた電車を追ってブキャナンがパディントン駅にいるはずだと推測する。 それぞれが駅へ向かうなか、ブラウン一家はご近所さんの一人で唯一パディントンを嫌っていたカリーさん(ピーター・カパルディ)の足止めを食らうことに。ここでもヘンリーが、「パディントンは人のいいところ見ようとする。だから誰とでも友だちになれる。彼が親切を惜しまないからみんなハッピーなんだ」とパディントンへのあふれる愛情を言葉にしていたのが感動的だった。 ■スパイアクションも披露! 走行中の列車でブキャナンと対峙するパディントンたち。ここでパディントンは、リンゴ飴を使って車両の屋根を移動したり、天井からぶら下がったり、スーツケースの梯子で並走する汽車へ乗り移ろうとするなど、「ミッション:インポッシブル」シリーズばりのアクションを披露。ちなみに前作でも、あのテーマ曲に乗せてハンディクリーナーの吸引力を使って壁をよじ登っていた。 ■パディントンの優しさに感化され、誰かのために行動しようとする人々 ブキャナンを倒したものの、彼によって連結解除された車両に閉じ込められ、そのまま川へと落下したパディントン。水泳の特訓をしていたメアリーが飛び込んで助けに向かうも、扉が重すぎて開かない。この絶体絶命のピンチに、国外へ逃げたはずのナックルズたちが現れて共に救出する。 その後、パディントンは3日間も眠ったままで、目覚めた時にはルーシーおばさんの誕生日当日に。証拠として絵本が警察に押収されたため、プレゼントも用意できなかったと残念に思うが、ブラウン一家らが協力しておばさんをロンドンに招待していた。パディントンの人柄に触れ、心に変化が起きた人たちが一丸となる姿にほっこりさせられる。 パディントンの新たな活躍を描く『パディントン 消えた黄金郷の秘密』。これまではロンドンがおもな舞台だったが、老グマホームから失踪したルーシーおばさんを捜すため、パディントンとブラウン一家がペルーのジャングルで大冒険を繰り広げる。さらに、ホームの院長役でオリヴィア・コールマン、観光ボートの船長役でアントニオ・バンデラスも新たに参戦する。はたして、パディントンはルーシーおばさんと再会できるのか?親しみのある愛らしいキャラクターにも注目してほしい。 文/平尾嘉浩