米政府、「手違い」でエルサルバドル送還の男性を起訴し帰還させる 米連邦地裁で公判開始

トランプ米政権は6日、今年3月に「手違い」で送還した中米エルサルバドル出身のキルマー・アブレゴ=ガルシア氏(29)を、アメリカに帰還させたと発表した。パム・ボンディ米司法長官は記者会見で、南部テネシー州の連邦大陪審が5月に、連邦法違反2件の罪状で同氏を起訴したと明らかにした。 アメリカ政府は、不法移民をテキサス州からアメリカ国内の複数地域に移動させる人身売買行為に、アブレゴ=ガルシア氏が数年間にわたり関与したと訴えている。 アブレゴ=ガルシア氏は同日、テネシー州ナッシュヴィルの連邦地裁に出廷し、起訴内容の説明を受けた。13日に罪状認否が行われる予定。罪状認否の際に判事が、勾留継続の是非を判断する。それまで同氏は、連邦施設で勾留される。 アメリカ政府が逮捕状を提示したことを受け、 エルサルバドル政府は、アブレゴ=ガルシア氏の釈放に同意したという。ボンディ長官が6日に明らかにした。 アブレゴ=ガルシア氏の弁護士は、起訴内容は「まったくあり得ない」ものだと反発している。 トランプ政権は3月、他の250人以上と共にアブレゴ=ガルシア氏をエルサルバドルの巨大刑務所に追放。米連邦最高裁が4月に、同氏の帰国を「容易にする」よう政府に命じたものの、政権はこれに抵抗していた。 ■アメリカ国内で刑事裁判 ボンディ長官によると、テネシー州の連邦大陪審が5月にアブレゴ=ガルシア氏を、外国人移送の共謀罪1件と、不法外国人の違法移送罪2件で起訴した。 長官は、アブレゴ=ガルシア氏が数千人の不法移民をアメリカに送り込む外国人密入国組織で「重要な役割を果たした」と連邦大陪審が判断したのだと述べた。 2016年にまでさかのぼる罪状では、アブレゴ=ガルシア氏がテキサス州やメリーランド州を含む複数州の間で、不法滞在者を100回以上移動させたとしている。 起訴状ではさらに、同氏が、米政府が外国テロ組織に指定しているエルサルバドルの「MS-13」のメンバーを移送したとも主張している。 トランプ政権は以前、アブレゴ=ガルシア氏が「MS-13」の一員だと主張していたが、本人はこれを否定している。 ボンディ長官はさらに、アブレゴ=ガルシア氏が「MS-13」のためアメリカに武器や麻薬を密輸したと非難したが、司法省はそうした罪状ではアブレゴ=ガルシア氏を起訴していない。 アブレゴ=ガルシア氏の弁護団はこれまで、同氏はアメリカでもエルサルバドルでも、ギャングの一員ではなかったし、刑事事件で有罪になったことはないと主張してきた。 弁護士の一人、サイモン・サンドヴァル・モシェンバーグ氏は6日の記者会見で、起訴内容は「あり得ない」もので、アブレゴ=ガルシア氏に対するトランプ政権の一連の行動は「権力の乱用」だと批判した。 「政府は裁判所の命令に違反し、キルマーを外国の刑務所に送り、行方をわからなくした」とモシェンバーグ弁護士は述べた。「それから何カ月も対応を遅らせ、事実を隠蔽(いんぺい)した挙句、政府は自分たちの間違いをただすのではなく、彼を起訴するために帰国させた」。 「これは権力の乱用で、正義ではない。政府は、2019年にこの事件を審理した移民裁判官の前で、彼に完全かつ公正な裁判を受けさせるべきだ」とも、弁護士は主張した。 アブレゴ=ガルシア氏は10代の頃、エルサルバドルからアメリカに不法入国した。同氏は2019年3月、メリーランド州ハイアッツヴィルにある米住宅リフォーム小売「ホームデポ」の駐車場で、別の男性3人と共に拘束された。連邦移民当局の施設で勾留されたが、その後、エルサルバドルのギャングから迫害される恐れがあるとして、強制送還を差し止める保護処分の対象になった。 トランプ政権が1798年に制定された「敵性外国人法」を適用し、移民追放を強化する中、 アブレゴ=ガルシア氏は3月15日、エルサルバドルへ送還された。「敵性外国人法」は、戦争や侵略を受けた際に「敵対国」の出身者や国民を拘束し、国外追放する権限を大統領に与えるもの。 アブレゴ=ガルシア氏は、トランプ政権がエルサルバドルの悪名高い巨大刑務所「テロ監禁センター(CECOT)」に移送した238人のベネズエラ人と23人のサルバドル人の一人になった。 司法省の弁護士たちは当初、アブレゴ=ガルシア氏がCECOTに送られたのは「行政上の手違い」だと説明していたものの、トランプ政権は同氏の帰還を拒否していた。 アブレゴ=ガルシア氏がメリーランド州の自宅に戻れるよう政府が「容易にする」べきかどうかをめぐり、政権は裁判所と法廷闘争を繰り広げてきた。政治的にも与野党の大きい争点となった。 メリーランド州選出のクリス・ヴァン・ホレン連邦上院議員(民主党)が4月に、エルサルバドルを訪れてアブレゴ=ガルシア氏との面会を再三求めると、同氏は別の刑務所に移送された。 ヴァン・ホレン議員は6日、「これは彼の問題ではなく、彼の憲法上の権利と、全員の権利の問題だ」と述べた。「政権は今後、裁判所で訴えを主張しなくてはならない。最初からそうすべきだった」とも、同議員は強調した。 エルサルバドルのナジブ・アルマンド・ブケレ・オルテス大統領はソーシャルメディアで6日、トランプ政権が「ギャング・メンバーを訴追するためその帰還を要求するなら、我々が断るはずがない」と書いた。ブケレ大統領はトランプ大統領の熱心な支持者の一人。 (英語記事 US brings man mistakenly deported to El Salvador back to face charges)

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