「揺さぶられっ子症候群」事件――弁護士記者が長年の調査報道の末に描く“贖罪”と“覚悟”のドキュメンタリー映画、9月公開

“揺さぶられっ子症候群(SBS)”事件に迫ったドキュメンタリー映画「揺さぶられる正義」が、9月20日から東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開されることが決定。あわせて、特報予告編、メインビジュアルが披露された。 本作は、文化庁芸術祭賞・優秀賞、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル・大賞、ギャラクシー賞報道活動部門・優秀賞、日本民間放送連盟賞・最優秀など多数の賞を受賞した一連の“揺さぶられっ子症候群(SBS)”事件を追った作品を元に、新たな取材と視点を軸にしてまとめあげた作品。弁護士として関西テレビに入社し、のちに記者となった異例の経歴の上田大輔が、「虐待をなくす正義」と「冤罪をなくす正義」とのぶつかり合いを描くなかで浮かび上がる、実名報道やメディアスクラムといったメディア=自らの暴力性にも向き合っていく。 上田大輔は、無実の人を救う弁護士を志すも、有罪率99.8%の刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士として関西テレビに入社。しかし、一度は背を向けた刑事司法の問題に向き合おうと記者になった。上田が記者1年目から取材を始めたのは「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome)」(通称SBS)。2010年代、赤ちゃんを揺さぶって虐待したと疑われ、親などが逮捕・起訴される事件が相次ぎ、マスコミも報じてきた。 SBSは子ども虐待対応のための厚労省のマニュアルや診断ガイドにも掲載され、幼き命を守るという強い使命感を持って診断にあたる医師たち。その一方で、刑事弁護人と法学研究者たちによる「SBS検証プロジェクト」が立ち上がった。チームは無実を訴える被告と家族たちに寄り添い、事故や病気の可能性を徹底的に調べていく。虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義が激しく衝突し合っていた。やがて、無罪判決が続出する前代未聞の事態が巻き起こっていく。 実名、顔を晒され、センセーショナルに報じられる刑事事件。逮捕報道に比べ、その後の裁判の扱いは小さい。無罪となっても一度貼られた“犯人”のレッテルはネット空間から消え去ることはなく、長期勾留によって奪われた時間も戻ってはこない。SBS事件の加害者とされた人や家族との対話を重ねた上田は、報じる側の暴力性を自覚しジレンマに苛まれながら、かれらの埋もれていた声を届け、司法とメディアのあり方を問う報道に挑む。そして、記者として何を信じるべきか、上田を最も“揺さぶる”ことになる人物と対峙することになる――。 なお、本作の特別予告とビジュアルは、話題作「どうすればよかったか?」でデザインを担当した成瀬慧氏と、予告編を制作した遠山慎二氏のコンビによるもの。上田監督と、プロデューサーの宮田輝美氏のコメントは以下の通り。 【上田大輔(監督)】 記者に転身した1年目に「揺さぶられっ子症候群(SBS)」事件の取材を始め、虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義の衝突を8年にわたり追い続けてきました。 「“犯人”と疑われている人をどこまで信用していいのか?」 「“冤罪”を前提にした発言は、記者としての一線を越えていないか?」 私の中で記者の正義と弁護士の正義がぶつかることもありました。 この映画は、記者として、弁護士として、そして一人の弱い人間として悩み続けた私の8年間の記録です。 【宮田輝美(プロデューサー)】 想定を超えてしまった。 8年間の取材をまとめ、冤罪で家族が引き裂かれることの理不尽さと、再び結ばれた家族の愛を描くのだと思っていた。有罪率99.8%の刑事裁判で異例尽くしの無罪の山を総括する必要もあった。 しかし振り返るだけでは気が済まなかったのか…上田は無謀にも飛び込んだ。懲役12年の独房から無実を叫ぶ最難関事件の只中へ。 どこに向かうつもりなのか? 迷宮を掻き分け辿り着いた先は、出口ではなく、入口だった。

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