老人ホームの入居女性2人殺害事件の教訓 甘いセキュリティー管理と根本にある慢性的な人手不足

埼玉県鶴ケ島市の有料老人ホーム「若葉ナーシングホーム」で、入居者の女性2人が殺害された事件から1カ月が経つ。1人に対する殺人容疑で逮捕された元職員の木村斗哉容疑者(22)は事件当日の10月15日、職員用出入り口に設置された電子ロックに4桁の暗証番号を入力し、施設内に侵入したとみられている。これまであまり注目されてこなかった老人ホームのセキュリティーについて現状を取材した。 * * * 一般的にホームでは、入居者が勝手に外へ出ないよう、正面玄関は内部からの解錠が必要な構造になっている。一方、職員用の通用口は、暗証番号や鍵で出入りすることが多く、そこがセキュリテーィー上の「盲点」となる場合がある。鍵は複製される可能性もあるし、暗証番号が外に漏れることもありうるからだ。 かつてホームで勤務していた経験がある記者も、退職した職員が「忘れ物を取りに来た」と言えば簡単に通用口を開けてしまえることや、多くのスタッフが暗証番号を共有していることが気になっていた。正面玄関(表)に比べ、職員用の通用口(裏)のセキュリティーは甘い。 ■「相当期間」暗証番号の変更なし さらに、「若葉ナーシングホーム」の場合、事件後に埼玉県が立ち入り調査をして、防犯管理体制を確認したところ、木村容疑者が解錠した電子ロックの暗証番号が「相当期間変更されていなかった」ことが明らかになっている。 現役介護職員(40代女性)はこう話す。 「どのホームでも、職員の出入り口の電子ロックの暗証番号の管理は正直ずさんだと聞きます。うちの施設でも数カ月ぶりに変更したばかり。退職者が出るたびに変えるルールがあっても、実際はホーム長次第という印象です」 日本介護福祉士会相談役で、熊本県内の特別養護老人ホーム施設長の石本淳也さんも、セキュリティー対策の難しさを指摘する。 「職員出入り口の暗唱番号を退職者が出るたびに変更するのは、スタッフの入れ替わりの激しい介護現場では現実的ではありません。たとえ変更しても、SNSなどで情報が漏れるリスクもあります」 石本さんが以前勤務していた施設では、職員出入り口に常に人を配置していたという。 「夜間は夜勤者が、出入りがあるたびに連絡を受けて内部から解錠する。顔を見て開けるというだけでも、不審者を防ぐ効果はありました」 とはいえ、「完全な安全」はあり得ないと、石本さんは話す。

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