通報9回したのに殺された…韓国のDV拉致殺人事件の経緯

先月12日、京畿道華城市東灘(ファソンシ・トンタン)で30代の女性Aさんが元交際相手に拉致され、殺害された。Aさんは9回にのぼる警察への通報、告訴状提出、弁護士による告訴理由補充書の提出など、何度も助けを求めていたが、警察は1カ月以上も事件を放置していた。むしろ被害者にスマートウォッチの返却を要求しつつ、「安全措置がまもなく終了する」と通知していた。Aさんは知人が用意してくれた場所に隠れ住んでいたが、すぐに加害者に見つかり、拉致された末に命を奪われた。いわゆる「東灘拉致・殺人事件」の経緯だ。 親密な関係にある人の間で起きる家庭や交際関係での暴力(DV、デートDV)犯罪が繰り返されているが、韓国の対応システムは国際基準に比べて非常に不十分だと指摘されている。国会立法調査処は今月19日に発行した報告書「東灘拉致・殺人事件に見る家庭・交際暴力対応システムの問題点と改善策」で、この事件を国内の家庭・交際暴力に対する対応システムの構造的限界があらわになった代表例として分析している。報告書は、被害者の救済が失敗し続けている理由として、加害者と被害者の分離の失敗:義務逮捕制度の不在▽反意思不罰罪の適用と警察の危険感知能力の不十分さ▽交際関係を規律する法律の不備▽接近禁止監視制度の不在をあげている。 現行の家庭暴力処罰法は、警察官がDV通報を受けて出動した際に「刑事訴訟法」に則って加害者を現行犯逮捕できるよう規定しているが、実際に逮捕されるケースはきわめてまれだ。報告書は「最高裁判決の求める行為の可罰性、犯罪の現行性、犯人の明白さ、逮捕の必要性という要件を満たせないケースが多いため」と指摘する。 血縁、法律婚、事実婚関係に限定されているDV関連法の規律対象を交際関係にまで拡大すべき、との主張もある。「交際関係で発生する暴力は『刑法』が適用されるため、被害者保護には限界があるから」だ。実際に、交際関係での暴行・脅迫犯罪には反意思不罰罪が適用されるうえ、接近禁止を求めることもできない。東灘拉致・殺人事件の被害者が最初に112(緊急通報用電話)に申告した際にも、警察は被害者が暴行され続けていたことを確認していながら、処罰を望まないと被害者に言われて特に保護措置を取ることもなしに現場を離れている。 接近禁止措置が取られても、監視制度がなく期間も短いため、被害者は常に不安にさいなまれる。今月19日に仁川市富平区(インチョンシ・プピョング)のオフィステルの玄関前で妻を殺害した60代の男性A氏も、DVで裁判所から接近禁止を命じられており、その期間(6カ月)が終了した1週間後に犯行におよんだことが確認されている。被害者はさらなる安全措置を望んでいたが、警察と相談することになっていた日に被害にあっている。報告書は「加害者が接近禁止命令に違反して被害者に接近していないかをリアルタイムで確認する制度がない」、「最長6カ月(被害者保護命令の場合は最長2年)となっているDVの接近禁止期間も海外に比べて非常に短い」と述べている。 外国では、義務逮捕制度、永久接近禁止の適用、位置追跡電子監視の導入などで被害者を保護している。特に米国は、被害者の申し立てや裁判所の判断によって、接近禁止措置が事実上無期限に延長できる。命令違反は法廷に対する冒とくとみなされ、即時逮捕の対象となる。ショートメッセージ、電話、Eメールなどのささいにみえる接触にも厳格な刑事処罰が適用される。報告書は「実質的に被害者を保護するためには、家庭暴力処罰法を改正して交際関係を含めるとともに、現行犯逮捕の要件を緩和し、位置追跡電子監視を導入するなどの制度的補完が急がれる」と強調している。 パク・コウン、イ・スンウク記者 (お問い合わせ [email protected] )

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