イスラエルとイラン『12日間戦争』停戦後も高まるテロの脅威──次の標的は?

2025年6月に発生したイスラエルとイランの「12日間戦争」は、トランプ米大統領の停戦発表により一時的に沈静化したものの、中東情勢の根深い対立は解消されていない。この戦争は、イスラエルによるイランの核関連施設への攻撃を契機に始まり、双方の激しい軍事衝突を引き起こした。【和田大樹】 停戦後もイランは核開発の継続を表明し、緊張状態が続いている。テロリズムの観点から懸念されるのが、イラン関連組織やその支持者によるイスラエルおよび米国権益を標的としたテロである。 【12日間戦争の概要と停戦の背景】 2025年6月13日、イスラエル軍はイランの核関連施設や軍事インフラを標的に攻撃を開始し、革命防衛隊の高官を含む要人を殺害した。これに対し、イランは弾道ミサイルやドローンを用いた報復攻撃を行い、イスラエル国内でも死傷者が出た。 その後、米国もイランの核施設3カ所を空爆し、トランプ大統領はイランの核濃縮能力の破壊を強調した。この一連の衝突は中東地域に深刻な緊張をもたらし、国際社会はさらなるエスカレーションを懸念した。 その後、6月24日、トランプ大統領は自身のSNS上で、イスラエルとイランの「完全かつ全面的な停戦合意」を発表した。 しかし、停戦直後にイスラエルはイランからのミサイル発射を検知し、報復としてレーダー施設を攻撃するなど、停戦合意の不安定さが露呈した。イラン側は核開発を続ける姿勢を崩しておらず、イスラエル側も必要に応じてイランへの再空爆を行う構えであり、問題の核心は全く解決しておらず、両国の間では再び激しい軍事的応酬となるリスクがある。 【イラン関連組織による過去のテロ事件】 イラン関連組織やその支持者によるテロ事件は、過去にイスラエルや米国権益を標的として世界各地で発生しており、その手口や影響は多岐にわたる。これらの事件は、イランが支援するヒズボラなどの組織がグローバルなテロネットワークを通じて攻撃を実行する能力を有していることを示す。以下に、代表的な事件を詳細に記述する。 1992年3月17日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるイスラエル大使館が爆破され、29人が死亡し、242人が負傷した。この攻撃は、イランが支援するヒズボラによるものと広く疑われている。さらに、1994年7月18日には、ブエノスアイレスのユダヤ人コミュニティセンター(AMIA)が爆破され、85人が死亡、300人以上が負傷する大規模なテロ事件が発生した。 この事件もヒズボラの関与が指摘され、イラン政府との繋がりが国際社会で問題視された。これらの事件は、イスラエル権益を狙ったテロの深刻さを示す代表例である。 2012年7月18日、ブルガリアのブルガス空港近くで、イスラエル人観光客を乗せたバスが爆破され、6人が死亡、32人が負傷した。この攻撃はヒズボラによるものとされ、イランの支援を受けたテロとして国際的な非難を受けた。ブルガリア政府はヒズボラの軍事部門が関与した証拠を提示し、欧州連合(EU)はこれを受けてヒズボラの軍事部門をテロ組織に指定した。 同年2月、インドのニューデリー、タイのバンコク、ジョージアのトビリシにおいて、イスラエル大使館や外交官を標的としたテロ未遂事件が相次いで発覚した。ニューデリーでは、イスラエル大使館員の車両が爆破され、外交官の妻が負傷した。バンコクでは、爆発物を持ったイラン国籍の容疑者が逮捕され、トビリシでも同様の計画が未然に防がれた。 これらの事件は、イラン関連組織が国際的なテロネットワークを通じてイスラエル権益を攻撃する能力を有していることを示す。特に、アジアや欧州での同時多発的な計画は、テロのグローバルな広がりを明らかにした。 そして、2023年10月のイスラエル・ハマス紛争の勃発以降、中国の北京ではイスラエル大使館職員が暴行される事件が発生した。この事件は、反イスラエル感情の高まりを背景にした単独犯によるものとされている。 また、同年11月、ブラジルのサンパウロにおいて、ユダヤ人コミュニティを標的としたテロ計画が発覚し、2人の容疑者が逮捕された。この計画は、ヒズボラと関連のある過激派グループによるものであり、イランの支援を受けた可能性が指摘されている。 【今後の動向】 12日間戦争は停戦に至ったが、それは表面的なもの過ぎない。軍事的な応酬が再び生じる可能性は十分にあり、イラン関連組織によるイスラエルや米国権益を狙ったテロのリスクには引き続き注意する必要がある。 アルゼンチン、ブルガリア、インド、ブラジルなどでの過去のテロ事件は、イスラエル権益を標的とした攻撃が世界各地で発生する可能性を示している。また、これらの事件は、イランが支援するヒズボラなどの組織が、グローバルなテロネットワークを通じて攻撃を実行する能力を持つことを示唆する。 最後に、在留邦人の安全という観点からは、日本企業などは各国にあるイスラエル権益や米国権益には近づいたり、長居しないよう駐在員などに注意喚起を徹底する必要があろう。

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