「クールな独裁者」エルサルバドル大統領の存在感高まる 再選制限を撤廃、強権主義加速

【ニューヨーク=本間英士】「世界一クールな独裁者」を自称する中米エルサルバドルのブケレ大統領(44)が国際的な存在感を高めている。ギャングに徹底的な圧力を加えることで、世界最悪級とされた治安の抜本的改善に成功。中南米各地で称賛され、トランプ米大統領との良好な関係も誇示する。その一方、7月31日には多数派の国会で大統領の再選制限を撤廃させるなど、強権主義的な動きも加速させている。 2019年に就任したブケレ氏は、非常事態宣言を発令して多くのギャング組織のメンバーを逮捕するなどして治安の劇的な改善に成功。殺人件数は就任前の2015年の約6600件から24年には約110件に急減した。国連総会の一般討論演説で自撮りをした写真が話題を集めるなど巧みなSNS戦略も奏功。多数の国民の支持を得ている。 英紙ガーディアンによると、ブケレ氏のファンを指す「ブケレ・マニア」が中南米で増えているという。中南米では以前のエルサルバドルと同様にギャングの横行に苦しむ国が多く、同紙は「中南米の多くの人々は厳格な犯罪対策を称賛している」と報じた。 トランプ氏もブケレ氏を高く評価する1人だ。米国で拘束されたベネズエラの犯罪組織のメンバーらをエルサルバドル国内の収容施設に受け入れた点を特に評価しており、4月の首脳会談時には「この男とは最高の関係にある」とブケレ氏を称賛した。 ただ、強引な手法に反発する声も根強い。推計で数万人を投獄し、罪のない人も一斉検挙に巻き込まれたことへの懸念も人権団体からは上がる。これに対しブケレ氏は6月、「国民が路上で殺されるのを見るくらいなら、独裁者と呼ばれる方がましだ」と反論した。 エルサルバドルでは大統領の再選が禁じられていた。だが、ブケレ氏は自身を支持する判事で占められた最高裁の容認判断を得た上で、昨年には事実上の再選を果たしていた。 7月31日には国会(一院制)で、ブケレ氏率いる多数派与党・新思想党が大統領の再選を無制限に容認する憲法改正案を可決。大統領の任期も従来の5年から6年に伸ばし、決選投票も廃止した。 米紙ワシントン・ポストはブケレ氏が「無期限に大統領職にとどまる可能性がある」と指摘。野党議員の1人は同日、国会で「民主主義はきょう死んだ」と書かれたプラカードを掲げた。

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