女性ランナーに対するナンパ目的での声かけや、性的なからかい、後をつけるなどの行為が、イギリスで深刻な問題になっている。 この問題に対処するため、イギリス南東部サリー州の警察は7月、女性ランナーへの嫌がらせを取り締まるおとり捜査を開始した。 「Jog On」と呼ばれるこのキャンペーンでは、制服ではなくランニングウェアを着た女性警察官が、被害が多発している地域を走る。 ランニング中の女性警察官がキャットコールと呼ばれるナンパ目的での声かけなどの嫌がらせをされれば、近くに待機している専門の警察部隊が、加害者に対応する。 イギリスのラジオLBCが取材した捜査では、女性警察官2人が走り始めてから数分以内に、大型トラックに乗っていた人物が追い越しざまにクラクションを鳴らし、窓からジェスチャーをしてきた。 さらに、その30秒後にも別の車両がスピードを落とし、クラクションを鳴らしたという。 覆面ランナーとして走った警察官の一人、アビー・ヘイワード巡査は、これは女性が日常的に受けている行為だとLBCに述べている。 「私たちは、キャットコールされたり、クラクションを鳴らされたり、スピードを落としてジロジロ見られたり、窓から身を乗り出して叫ばれたりしています。これはハラスメントで、そう認識されるべきです」 ランニングを含め、生活のあらゆる場面での女性や少女に対する暴力(VAWG)は深刻な問題だ。 サリー州議会が実施した調査では、回答した女性住民の94%が何らかの形の嫌がらせを経験していると答えた。その一方で、暴力を受けても一度も通報したことがないと答えた住民の割合は49%と約半数を占めた。 キャットコールなどの行為は、女性ランナーを不安や危険にさらし、行動を制限している。 『British Journal of Criminology(イギリス犯罪学会学雑誌)』に5月に掲載された研究では、高い割合の女性ランナーが口頭でのコメントやつきまとい、露出、身体的・性的暴行など、さまざまな形での虐待を受けており、自衛をせざるを得ないことが明らかになった。 ランニング中の女性へのハラスメントは、イギリスだけの問題ではない。アディダスが2023年に発表した調査では、9カ国4500人の女性のうち92%が、ランニング中に自分の安全について懸念を感じていると回答。38%が身体もしくは言葉でのハラスメントを経験したと答えた。 サリー警察はVAWG対策の一環として、女性ランナーへの路上での嫌がらせを根絶するために「Jog On」を立ち上げ、LBCによると7月だけで18人を逮捕した。 捜査の責任者であるジョン・ヴェイル警部補は「スピードを落とす、じろじろ見る、怒鳴る――たとえそれが必ずしも犯罪に当たらない行為でも、人々の日常生活に大きな影響を与え、女性がランニングに行くことすら妨げてしまいます」とLBCに語っている。 「私たちは、『この人物はさらにエスカレートするのではないか?性犯罪者なのではないか?』と考えざるを得ません。そのリスクを早い段階で管理したいのです」 ランニングが好きだというヘイワード巡査は、ハラスメントは、女性を不安や嫌な気持ちにさせるものであり、問題だという認識を広めたいとサリー警察がInstagramに投稿した動画で述べている。 「私たちが望む変化は、人々に『それは間違っている』と認識してもらうことです。それは、些細で大したことのない行為ではなく、本当に人を不快にさせます」