検察は「保釈せず反省」、裁判所は省みず 憲法で守られる裁判官たち

最高検は8月7日、大川原化工機冤罪(えんざい)事件を巡る捜査・公判活動に関する検証報告書を公表した。長期勾留の末に保釈が認められないまま病死した大川原化工機元顧問、相嶋静夫さん(享年72)について、胃がんが見つかって以降はあえて保釈請求に反対しないなど柔軟な対応をとることが相当だったとした。 その上で「深く反省しなければならない」と結んだ。個別事件の保釈実務で検察が「反省」を表明するのは異例だ。 さらに最高検は勾留中の被告の病状について、今後は拘置所と密に連絡をとるよう全国の地検に通知を出すとした。 ただ、これで否認や黙秘をすれば保釈が簡単に認められない「人質司法」が改善するかと言うと、慎重に見極める必要がある。裁判所が検証に後ろ向きだからだ。 ◇裁判所は「適切に判断している」 「否認や黙秘などをしていることを過度に評価して、不当に不利益な扱いをしないように留意するよう努める」 これは2016年に成立し一部事件で取り調べの録音・録画を義務付けた改正刑事訴訟法の付帯決議の言葉だ。 刑事法学者や法曹三者、法務省、警察庁からのメンバーで作る「刑事手続の在り方協議会」は22年7月から3年間、改正法の運用状況や検討課題を議論してきた。その取りまとめの報告書が7月24日に公表された。 「無実を主張する被告人が長期にわたり保釈を許可されないという例が多くあり、運用面での改善が見られない」 保釈実務の現状について批判的な意見が見られた一方、裁判所側は「運用は適切」と述べていた。 代表的な意見からは相当な自信を持っていることがうかがえるので抜粋する。 <裁判所は、当事者から得られた情報を基に、事案の軽重や被告人の具体的な供述内容、身上経歴等も踏まえつつ、罪証隠滅行為の態様を想定するなどした上で、罪証隠滅のおそれの有無や程度、逃亡のおそれの有無や程度を、その現実的可能性や実効性について具体的・実質的に検討した上で適切に判断している> <現行の運用で、否認または黙秘している事実を裁判所が過剰に評価しているという実態はない> ◇「検証せず」は裁判所のみ 検察は大川原化工機冤罪事件で「罪証隠滅の恐れがある」と相嶋さんらの保釈に反対した。裁判所はそれをなぞるように保釈請求の却下を繰り返した。 その結果、相嶋さんは被告の立場のまま望まぬ死を迎えた。同じく逮捕・起訴された社長と元取締役もそれぞれ332日という長期の身柄拘束を余儀なくされた。 あるヤメ検(検察OB)の弁護士は「検事時代はリアルに感じられなかったが、保釈を得るために罪を認める被告は現実にいる。検察も裁判所も、身体拘束の不利益をあまりにも軽く考えてきた」と自戒する。 検察が「反省」した今、「運用は適切」とする裁判所側の意見に説得力はあるだろうか。 警察、検察が検証作業を終えた中、裁判所からは検証の動きは見えない。 憲法76条は「裁判官の独立」を保障している。外部の干渉から独立して自由で公平な判断を実現するための規定だが、検証という意味では裁判所を守る大きな盾となっている。【佐藤緑平、五十嵐隆浩】

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