民間企業の採用で「売り手市場」が続く中、全国の警察が頭を悩ます警察官のなり手不足。鹿児島県警は本年度、大卒対象の採用試験で初の追加募集をかけた。志願者数の減少が続き、今年も好転しなかったことから急きょ実施に踏み切った。同県警を巡っては、相次ぐ不祥事や隠蔽(いんぺい)疑惑の影響を指摘する声も。「鹿児島県警を避ける動きがある」。志願者を送り出す複数の学校関係者は、現場の実態を率直に打ち明ける。 「極めて厳しい状況だ」。鹿児島県警の幹部はため息をついた。6月に実施した大卒者対象の試験は45人の採用予定に対し、受験者は79人。合格者は42人で、競争率は1・9倍と初めて2倍を割り込んだ。 同県警の志願者は「近年特に落ち込みが顕著」(幹部)。大卒対象の試験の競争率は2022年度の5・4倍が23年度には2・6倍、24年度は2・0倍に下落。24年度は44人の合格者のうち12人が辞退し、45人の採用予定で32人しか確保できなかった。24年度の大卒と高卒を合わせた受験者は226人で、10年前(809人)の3割に届かない。 新人の確保は各県警共通の課題だ。福岡県警の24年度の受験者数は10年前の4割弱で、本年度は社会人経験が2年以上ある35歳未満を対象にした採用枠を新たに設けた。長崎県警の担当者は「他の県警と志願者の取り合いになっている」。鹿児島県警も交流サイト(SNS)で仕事ぶりを発信したり、警察署員と若者が触れ合うイベントを開催したりと力を入れる。 ◇ ◇ 一方で鹿児島県警の志願者減を巡り、学校関係者は「不祥事や隠蔽疑惑の影響がある」と口をそろえる。県警では23年以降、警察官の逮捕が続発。強制性交、不同意わいせつ、盗撮…。24年6月には元生活安全部長が「本部長の不祥事隠蔽疑惑」を裁判所で主張した。県警はもみ消しを否定し、同年8月には不祥事の「再発防止対策」を公表。だが、同11月には少女と性交したとして巡査部長が懲戒免職になった。今年2、3月には幹部である捜査2課長を務めた警視が不同意性交や情報漏えいの容疑で書類送検される(いずれも不起訴)など、「対策」の実効性が疑問視されている。 県内の専門学校職員によると、警察官志願者で今年、鹿児島ではなく他の県警を第1志望にした人が複数いた。「地元志向の強い鹿児島でこれまでにない傾向」という。「県警が採用をいくら強化しても、信頼を本気で回復しないと志願者は増えない」と別の専門学校関係者。高校の進路担当者は「鹿児島県警の受験は親が嫌がる」と明かす。 警察官を目指す人は複数の県警を受験する例が多いが、宮崎県の専門学校幹部は「鹿児島県警は人気がない。隠蔽のイメージが拭えないから」。福岡市の公務員志望の男子大学生(21)は「もみ消しが疑われる組織は風通しが悪そうで働きたくない」と話した。 6月の県議会では現状に危機感を持つ県議から「持続可能な警察組織の観点から『憧れの警察官』という職種にしていってほしい」との注文もあった。 鹿児島県警の採用担当者は取材に「志願者減の要因は少子化や県外就職希望者の増加、若者の民間企業志向」と説明。県警幹部は「不祥事や隠蔽疑惑とは関係ない」と強調した。 15日までの追加募集には、12人の採用予定に37人が応募した。採用担当者は「まあまあの数」と受け止めている。 (竹森太一)