先の参議院選挙で、右寄りの主張の目立った参政党が躍進を遂げたことは、大きな話題となった。子育て支援、食料問題、移民対策など、庶民の日常的関心事にフォーカスし、わかりやすい言葉で情動に訴える選挙戦略が功を奏し、普段選挙に行かないような層を捉えたという。 ヨーロッパでは、日本よりずっと早くから極右政党が台頭している。イギリスのイギリス国民党、フランスの国民連合(旧称:国民戦線)、ドイツのAfDや祖国(旧称:ドイツ国家民主党(NPD))、イタリアの同盟、オランダの自由党など、いずれも自国中心主義、民族主義、排外主義などを掲げ一定の支持を集めてきた。 ことにドイツでは、ナチス時代への反省から長らく移民には寛容だったが、2000年代に移民を標的にした爆破テロが相次いだ。以前取り上げた2017年のドイツ映画『女は二度決断する』は、その事件の一つを題材にしたものだ。当初はイスラム系内部の抗争と見られており、ネオナチグループの逮捕までに時間がかかったため、ドイツ警察における戦後最大の不祥事と言われている。 今回は、そんなドイツ国内で2012年にベストセラーになった小説を原作にした『帰ってきたヒトラー』(2015、デヴィッド・ヴェンド監督)を取り上げよう。公開当時の10年前よりも、この映画のリアリティは増しているように感じられるからだ。 史実に基づいて描いたいわゆる「ヒトラー映画」は結構あるが、本作はヒトラーが現代のドイツにタイムスリップしてくるという、奇想天外なワンアイデアで展開されている。 2014年、ベルリン市街地のとある茂みの中に汚れた軍服姿で倒れているアドルフ・ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)。目覚めて開口一番発したのは「マルティン・ボルマンは?」という、ナチ親衛隊名誉大将で晩年のヒトラーのもっとも近くにいた人物の名だ。1945年、枢軸国敗戦間近の世界にいるつもりの彼は、事態が把握できず茫然自失としたまま街を彷徨い、キオスクの新聞で今が2014年であることを知り卒倒する。 頭のおかしい浮浪者だと思い込んだキオスクの主人に助けられ、さまざまな新聞や雑誌を読んで驚嘆したり憤慨したりしながら戦後の状況を知ったヒトラーは、「闘いを続けよという神意」を得る。彼にしてみれば、ナチス・ドイツがその一部を併合したはずのポーランドが存在し、どうやら世界はずっと連合国の都合で動いている、これは看過できぬということだ。