8月23日、警視庁大塚署の護送口に姿を現した若い男は驚きを隠せない表情だった。珍しいものでも見るように、目を見開いて集まった報道陣を眺めていたのだった。 現在公開中の映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』を盗撮したとして、警視庁は足立区の韓国人留学生、シム・ジュンウ容疑者(24)を著作権法違反などの容疑で逮捕した。7月18日に東京都新宿区内の映画館で映画をスマートフォンで盗撮し、配給元のアニプレックスなどの著作権を侵害した疑いだ。 「シム容疑者は今年7月に他人名義のクレジットカードを使って通販サイトでアニメのブルーレイディスク200枚を購入した窃盗の疑いで逮捕されました。その際に押収されたスマホから、2時間35分の『無限城編』の映画全編を盗撮したとみられる動画が見つかったのです。 シム容疑者は『盗撮していない』と、容疑を否認しているようです」(全国紙社会部記者) 『無限城編』は、7月18日に公開されるや8日間で興行収入100億円を突破。8月24日までに280億円を超え、『タイタニック』(1997年)の277億円を抜いて歴代興行収入ランキングの3位となった。大ヒットが予想された人気作品だけに、公開前の5月の時点で劇場限定の公開予告動画が盗撮されてネット上にアップされ、公式サイトでは注意を促していた。 また、本編公開後の7月25日にも《本編映像を盗撮した映像がインターネット上に見られます》として、映画盗撮防止法および著作権法に違反する著作権侵害は《10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられる可能性があります》と、刑事告訴なども含め、厳正に対処するとしていた。 ◆被害額は’19年から5倍超に 近年では、日本で上映されたアニメ作品がすぐに海賊版サイトにアップされる事態が頻発しているという。一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の推計によれば、海賊版による日本のコンテンツの被害額は’22年で約1兆9,500億円~2兆2,020億円。’19年の5倍を上回る額だという。このうち映像にかかわる被害は約9,065億円~1兆4,297億円とみられている。 ’00年代には新作映画を盗撮して違法にアップロードしたり、DVDとして販売される事例が世界的に問題となり、’07年に映画盗撮防止法が施行されるきっかけとなった。このときの盗撮による損害額は日本国際映画著作権協会によれば’05年で180億円だった。集計方法が違うので一概に比較はできないが、ケタが1つ違うどころの話ではなくなっているのだ。 映画館も手をこまねいているわけではない。有名なのは映画の上映前にかならず流れるカメラ男とパトランプ警官の『NO MORE 映画泥棒』の啓発CMだろう。その効果あって観る人の意識も高まっており、7月に『鬼滅』の盗撮報道が出た際には《違反者をみつけたら通報することにしてる》《盗撮、ダメ、絶対!》などの意見が多数寄せられていた。 「映画館によりますが、数十分おきぐらいにスタッフが入り口のほうから客席全体をチェックしています。これは盗撮防止に限らず、何か異常はないかを確認するためです。また、客席後方の映写室からも、定期的にスタッフが異常がないか確認しているそうです。 このときにスマホを触っている人がいれば光ですぐにわかるので、スタッフが注意するようにしています。最近ではマナーとして上映中に光の出るスマホやスマートウォッチなどを触らないよう呼びかけていますが、盗撮防止のためでもあるんです。さらに最近はお客さんが通報してくれることも多いようです。このように監視の目がかなり厳しくなっており、全編盗撮するのは相当ハードルが高くなっているはずなのですが……」(エンタメ誌ライター) シム容疑者の盗撮が発覚したのはたまたま別の事件で捕まったからで、盗撮そのものがバレたわけではない。今回の『鬼滅の刃』公式サイトが再三しないように呼びかけていたにもかかわらず、映画の盗撮は後を絶たないのだ。