「振り込め詐欺の受け子」で逮捕された少年が留置場で母に発した「たった6文字の言葉」

2003年、私は警察学校を卒業し、警察官人生をスタートさせた。約20年、色々な場所で勤務してきた。現場で汗を流す末端の警察官の、良いことも悪いことも含めたリアルな姿を描きたいと思う。※この記事は安沼保夫『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。登場人物は仮名です。 ● 某月某日 「声を聞かせて」 面会の人間ドラマ 留置の仕事に面会立ち会いがある。被留置者(容疑者)は接見禁止でないかぎり、1日1回の面会が認められ、家族や友人が訪れる。証拠のもみ消しの依頼など、事件に関するやりとりをさせないため、われわれが立ち会うのだ。この面会には人間ドラマが凝縮されている。 被留置者は30代の男。男を連れて面会室に入る。面会に来たのは父親である白髪の紳士だった。男を座らせて、私も監視役としてその隣に座る。 男は席に着くやいなや、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。 「頼む! オヤジ、店に金払って示談してくれ!」 父親は冷静というよりも冷たい目でわが子を見ている。しばらくは何も言わない。私は刑事課から引き継がれた書類で罪名と犯罪事実を把握している。男は衣料品店で万引きをして捕まった。どうやら前回も万引きで捕まったものの、その際は父親が示談金を払って起訴を免れたらしい。 「なあ、今回も頼むよ。ここを出たらちゃんと働くから。約束する!」 「……いつまで甘ったれてるんだ。もう何度目だ? そろそろ本気で反省しろ」 父親が冷静に言うと、男は苛立ち始めた。 「おいっ、こんなんで前科ついたら、妹の将来にも影響すんだぞ! それでいいのか。お願いだよ!」 示談せずに起訴されたらほぼ有罪*になる。有罪判決を受ければ、罰金刑や執行猶予付きだったとしても「前科」として記録されるし、海外渡航の制限や一定期間一部の職業に就けないなどの不利益が生じる。だが、男の“脅迫”にも父親は顔色を変えなかった。 「自業自得だ。今回は俺はもう何もしない。それを伝えに来た。もう帰るからな」 面会時間は20分までと定められているが、わずか3分で父親は席を立った。 「オヤジ! 待ってくれよぉ〜!」 男の叫びもむなしく、父親は一礼して面会室を出ていった。被留置者もしくは面会相手が終了の意思を示せば、面会時間は終わりだ。 「はい。もう終わりです」と声をかけると、男は肩を落として立ち上がった。 父親は示談にしなかったのであろう。男は数日後に無事(?)起訴され、拘置所へと送られていった。 ある少年に母親が初めての面会に来た。少年と親との初面会は荒れる傾向がある。とくに母親の場合は「どうしてこんなことをしたのよ!」とか「あんたをこんな子に育てた覚えはないわ!」とか言いながら泣き崩れ、少年のほうはそれを呆然と眺めているパターン*が多い。

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