中国の半導体産業の競争力が急上昇している。日本勢が得意とする半導体製造装置や関連部材でも、中国勢が急速に技術力を上げていることへの警戒感が出ている。中でも注目すべきは華為技術(ファーウェイ)だ。ファーウェイの研究開発費は年間3.6兆円で、他に投資ファンドも設定している。翻ってトヨタ自動車は同1兆3700億円だ。日本が半導体産業を再興できるか、今まさにチャンスとピンチが同時にやってきている。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫) ● 中国が半導体製造装置の国産化加速 中国のAI(人工知能)チップなど半導体産業の競争力が最近、急上昇している。1月の“ディープ・シークショック”に続き、8月29日、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、アリババ・グループが高性能の新型AIチップを開発したと報じた。中国の半導体産業はすでに米国を脅かす実力を持ち始めているとの見方もあり、米国の株式市場でエヌビディア株は約3%下落した。 半導体の専門家の中には、「あと5年程度で中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)が台湾積体電路製造(TSMC)に匹敵する」とみる向きもある。それと同時に、日本勢が得意とする半導体製造装置や関連部材分野でも、中国勢が急速に技術力を上げていることへの警戒感が出ている。 中でも注目すべきは、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)だ。AI関連分野の研究開発費を大きく積み増している。中国政府も、半導体大手の経営統合を促進するなど技術向上を図っているようだ。 半導体は、経済・安全保障の両面で戦略物資である。中国企業の台頭により、アジア新興国で中国製チップの利用が増えることは避けられないだろう。つまり、エヌビディアやTSMCの優位性は低下することになる。世界経済の最も重要な分野で、地殻変動が起き始めている。 わが国はそうした展開を見据え、先端チップの量産化を急ぐ必要がある。民間企業の設備投資を積極化するためには、政府の支援も重要だ。経済構造の地殻変動の中で、わが国は重要なチャンスとピンチを同時に迎えている。