下着姿で連行、刑務所で“愛”を学んだ少年。実話をもとにしたドラマ『BAD BOY』とは

砂ぼこりまみれの刑務所で少年時代を過ごし、その経験談をネタにし、コメディアンとして活動するディーン・シャイマン。イスラエル発のドラマ『BAD BOY』は、彼の少年時代と現在を、事実に基づいて制作しているヒューマンドラマだ。 90年代ミニシアター映画のようなざらついた映像と、少年たちの心の揺れを表しているような荒っぽいカメラワーク、さぞ過酷な刑務所時代を描いたドラマなのだろうと構えてしまうかもしれない。 確かに過酷だった。まだ若すぎる13歳の少年には、とても耐えられる環境ではないことの連続だ。しかしこのドラマの本質は、そんな過酷な環境のなかで、一人の少年が“愛を知る”感動物語なのだ。 ディーンが眠っているころ、警察が突然家に押しかけてきた。下着姿のまま連行されたディーンは、わけもわからぬまま未成年者が収容される少年刑務所に収監された。 「刑務所ではチクりは厳禁だ、たとえコーラを出されてもな」と教えてくれたのは、少し年上の青年アンケシ。彼は以前も刑務所にいたようで、注意したほうがいい人物や、ここでのルールなど、親身になって教えてくれた。 しかし翌朝、アンケシは大勢の囚人から暴行を受け、ディーンの目の前で、帰らぬ人となってしまった――。ここにいたら殺される……。過酷な少年刑務所での生活が始まった。 時は現代、大勢の目の前で刑務所時代の小話をし、笑いに包まれる会場。舞台は終わり、控室に戻ったディーンは、留守番電話のメッセージを聞いて、怯えていた。 「決着をつけようぜ、外で待ってるからな」。そう話したのは、少年刑務所で共に過ごしたフレディだった。 物語はディーンが逮捕される前の生活、少年刑務所での暮らし、出所後のコメディアンとしての生活を行き来しながら進んでいく。 本作は『ユーフォリア』のクリエイターを務めたロン・レシェムが手がけており、元ジャーナリストでもあるからこその観点で、非行に走る少年たちのトリガーとなった出来事を繊細に描いた。『ユーフォリア』でも見られた、思春期の言葉では言い表せない“得体の知れない不安”を描くことに関しては、ずば抜けているように思う。 父親は不在で母親と弟と暮らしていたディーンだが、常に母親は不安定だった。ディーンが拾ってきた銃を見つけると、叱りながら息子たちの前で撃って脅すくらいパンチの効いた母親だ。母親に嫌われて通報され、刑務所に送られたと思ったディーンは、母親とさらに距離を置くこととなってしまう。 ディーンは決して愛されることを知らなかったわけではない。ただ、母親からの無条件の愛を感じられず、愛を探してもがいていたのかもしれない。 ディーンは人格形成がされる思春期を、主に刑務所で過ごした。少し変わった環境かもしれないが、その中で心を許せる友人を見つけ、トーク力を褒められ、コメディアンになるという夢を見つけた。 これはディーンが愛を見つけ、愛を知り、成長する物語だ。時折極端な行動に出て、周囲を心配させてしまうこともあったが、純粋すぎるディーンのいいところでもある。そんなディーンの存在が、周囲の人間の心を動かし、大きな感動を呼び寄せてくれる。 刑務所を描いた作品は多数あるが、イスラエルならではの信仰の違いや、ルールの違いにも注目。真実とはかけ離れているのかもしれないが、囚人たちがオシャレすぎるので、そちらも同時に楽しんでいただきたい。 『バッド・ボーイ』はNetflixにて全8話、配信中。 Text:Jun Ayukawa Illustration:Mai Endo

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