アメリカのドナルド・トランプ大統領は27日、今後2カ月間、オレゴン州ポートランドに州兵を派遣するよう命じた。移民収容施設を抗議者から守るためだとしている。これに対し、オレゴン州は28日、派兵は「違法」だとしてトランプ政権を提訴した。 ピート・ヘグセス米国防長官のメモによると、連邦施設の保護を目的として、ポートランド市内の抗議活動が「発生しているあるいは発生する可能性が高い」場所に、少なくとも200人の州兵が派遣される予定だという。 トランプ大統領は27日、移民収容施設を標的とする抗議活動を鎮圧するために、必要であれば「全面的な武力行使」を認めると述べた。 オレゴン州司法長官ダン・レイフィールド氏が28日に提出した訴状は、トランプ政権の措置は「挑発的かつ恣意的」なもので、「一般市民の反発をあおり、公共の安全を損なう恐れがある」と主張している。 トランプ政権は不法移民の取り締まりを強めている。そうした中でのポートランドへの派兵は、アメリカの各都市への部隊派遣がさらに拡大していることを示している。 トランプ氏は、ポートランドへの派兵は、反ファシズム運動を展開する「Antifa(アンティファ)」やそのほかの国内テロリストによる攻撃にさらされている移民関税捜査局(ICE)施設」の保護に役立つだろうと主張。自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、ポートランドを「戦争で荒廃した」都市と形容した。 オレゴン州の民主党議員らはこれに反発し、ポートランドに連邦政府の介入が必要だとするトランプ氏の主張を一蹴した。 「ポートランドに国家安全保障上の脅威は存在しない。我々のコミュニティーは安全で平穏だ」と、同州のティナ・コテック知事は27日に述べた。 ポートランドのICE施設をめぐっては、6月初旬から抗議活動が起きており、時には暴力的な衝突も発生している。 連邦検察は9月8日時点で、放火や警官に対する暴行、逮捕妨害などの連邦法違反で26人を起訴している。 米国土安全保障省(DHS)は26日、抗議者がポートランドの「ICEの処理センターを繰り返し攻撃し、包囲した」と発表した。 複数人が連邦法違反の犯罪で逮捕・起訴されたと、DHSはソーシャルメディアに投稿。「最近、国内テロ組織に指定されたローズシティ・アンティファは、ICE職員の個人情報を違法に公開した」とした。ローズシティは、ポートランドの愛称。 「彼らは(ICE職員の)自宅住所をオンラインやビラで公開した。アンティファに関係する複数の個人は、DHS職員に殺害予告も送った」と、DHSは説明した。 ローズシティ・アンティファは、ビラまきについては関与を否定している。 トランプ氏は今週初め、アンティファを正式に国内テロ組織に指定する大統領令に署名した。 アンティファは反ファシストの略称で、主に極左活動家による緩やかな組織運動を指す。 法律の専門家は、アメリカには団体を正式に国内テロ組織に指定する法的枠組みは存在しないと指摘。こうした試みは、言論と集会の自由を保障する憲法修正第1条に抵触する可能性があるとしている。 ■民主党議員が反発 民主党議員は、トランプ氏の言動と、オレゴン州内で報告されているICE職員の行動を批判している。 オレゴン州選出のロン・ワイデン上院議員は26日、連邦職員が「2020年の戦略を再現しようとしている」ことを示す「信ぴょう性のある」報告が寄せられていると述べた。これは、2020年5月にミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を押さえつけられて死亡した事件をきっかけに始まった大規模な抗議を鎮圧しようと、州兵が動員されたことを指している。 「暴力行為をあおろうとするトランプ氏のわなにはまらないよう、オレゴン州民に強く求める」と、ワイデン上院議員は述べた。 地元の議員たちは、地域社会に実際には脅威を与えていない人々を、ICEが標的にしているとも非難している。 「ICEは、犯罪を犯した人を逮捕・拘束の対象にしていると主張している。彼らは、我々にそう説明した。しかし、我々が目の当たりにしている状況はそれとは異なる」と、民主党のスザンヌ・ボナミチ下院議員(オレゴン州)は述べた。 議員たちは、子どもが通う保育園の外で父親が拘束されたり、オリンピック国立公園での火災に対応していた消防士が逮捕されるといった、最近起きた事案を例に挙げた。 また、首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク「ケイトー研究所」が発表した統計データでは、ICEに拘束された人の65%が刑事有罪判決を受けていないことが示されているとしている。 ■一部の共和党議員は支持 民主党からの反発にもかかわらず、一部の共和党関係者はトランプ政権の今回の動きを支持している。 ロリ・チャベス・デレマー米労働長官(共和党)は、「無法状態」がポートランドを「犯罪に満ちた戦場」に変える様子を目の当たりにしたと述べた。 同州選出の元下院議員だったロリ・チャベス=デレマー氏は、「ICE施設を保護し続けるために、そしてアメリカを再び偉大にするために行動してくれた」トランプ氏に感謝するとした。 トランプ氏は6月にカリフォルニア州ロサンゼルスに、8月に首都ワシントンに州兵を派遣。今月29日にはテネシー州メンフィスにも連邦職員が到着する予定。 不法移民の強制捜査をめぐる騒乱に対処するため、トランプ氏はロサンゼルスに2000人の連邦職員を派遣した。抗議者を解散させるために催涙ガスが使用されるなど、衝突は数日間続いた。 カリフォルニア州の連邦判事は今月初め、ロサンゼルスへの州兵派遣は違法であり、国内問題への対処のために軍事力を行使することを制限する「民警団法」に違反しているとの判断を示した。 トランプ氏に、オレゴン州に連邦部隊を派遣できる法的根拠があるのかは不明だ。 (英語記事 Oregon sues Trump administration over plans to deploy troops)