国連の人権専門家らは29日、イランにおける死刑執行件数の「劇的な急増」に衝撃を受けていると述べた。今年は9月末までに、1000人以上が処刑されている。 5人の特別報告者は共同声明で、「イランにおける死刑執行の規模は圧倒的であり、生命の権利に対する重大な侵害を示している」と警告した。 専門家らは、確認されている死刑の半数が麻薬関連の犯罪によるものだと指摘。ここ数週間は、1日あたり平均9件の絞首刑が記録されているという。 イラン政府はこの件について、現時点でコメントしていない。イランはこれまで、自国の死刑制度を擁護している。 声明は、「イラン人権状況」、「アフガニスタン人権状況」、「超法規的、略式および恣意(しい)的処刑」、「少数者問題」、「拷問および他の残虐で非人道的または品位を傷つける取り扱いまたは刑罰」に関する、国連の各特別報告者らが共同で発表した。 特別報告者らは、「イランは、人権保護のあらゆる国際基準に反する、工業規模の死刑執行を行っているように見える」と指摘。また、麻薬関連の罪によって499人が絞首刑に処されたことについて、「特に憂慮すべき事態だ」と述べた。 イランで違法薬物取締法が改正された後の2018年から2020年の間には、こうした死刑執行は年間24〜30件にとどまっていた。しかし専門家らによると、2021年以降に件数が急増しており、昨年は503件が報告されたという。 国際法は、死刑の適用を「最も重大な犯罪」に限定している。「麻薬犯罪はこの基準を満たしていない」と、専門家らは警告している。 国際社会が「このような体系的な人権侵害に直面し、沈黙を続けることは許されない」と声明は述べ、各国に対し、「イランに対してこの死刑の連続執行を停止するよう圧力をかけるために、具体的な外交的行動を取らなければならない」と警告した。 ■不公正な裁判の結果だと人権擁護団体 人権団体「アムネスティ・インターナショナル」とノルウェーに拠点を置く「イラン・ヒューマン・ライツ」は先週、今年1月以降にイランで1000人の死刑執行を確認したと発表した。これは、すでに昨年1年間に報告された合計975件を上回っている。 イラン・ヒューマン・ライツによると、今年処刑された人々のうち50%が麻薬関連の罪に問われた。このほか、43%は殺人、3%が「国家に対する武装反乱」、「地上に腐敗を広めた罪」、「神への敵意」といった治安関連の罪、1%がスパイ行為によるものだとされる。 女性は28人、アフガニスタン国籍の人物は58人だった。アムネスティは、「不均衡なほど多くの少数派コミュニティー出身者」が含まれているとしている。 両団体は、これらの死刑執行について、拷問やその他の虐待の疑いがある中で行われた、常に不公正な裁判の結果だと指摘している。 イラン・ヒューマン・ライツはまた、北部キャラジにあるゲゼル・ヘサル刑務所内だけで、麻薬関連の罪で有罪判決を受けた500人以上が死刑執行を待つ身だと説明。この人々の刑はいずれも「執行段階」にあると報告した。 ■スパイ容疑での死刑執行 イランでは29日、イスラエルのためにスパイ活動を行ったとされた男性が処刑された。 イラン司法当局が運営するミザン通信は、この男性はバフマン・チョウビ・アスル死刑囚だと報道。「機密性の高い通信プロジェクト」に従事していたデータベース専門家で、イスラエルの情報機関モサドの「信頼されたスパイ」だったと、証拠を示さずに報じた。 同通信によると、アスル死刑囚は「地上に腐敗を広めた」罪で有罪判決を受けた後、最高裁判所が控訴を棄却したことを受け、29日に絞首刑に処された。 ミザン通信は、アスル死刑囚がいつ逮捕されたかについては言及していない。同死刑囚の事件はこれまで、イランのメディアや人権団体によって報告されていなかった。 アスル死刑囚は、今年イランでイスラエルのためにスパイ活動を行った罪で処刑された11人目の男性となった。こうした死刑のうち10件は、両国間で6月に発生した「12日戦争」以降に執行されている。 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、イランの強力な憲法監視機関である監督者評議会は現在、スパイ法の草案を審査している。この法案では、「敵対的国家との協力」の定義が再構成されており、オンラインでの通信、外国メディアとの協力、そしていわゆる「思想的同調」などの行為が新たに含まれることになっている。有罪となれば死刑になる可能性があるという。 (英語記事 UN experts condemn 'staggering scale' of executions in Iran)