《ブラジル》露スパイは宝石商からモデルまで=ブラジル拠点に南米諸国で活動

【既報関連】連邦警察(PF)は22年、ブラジル国内で少なくとも12年間活動していた、ロシアのスパイ組織を摘発した。このスパイ網は、ブラジルを拠点に中南米全域に広がっており、巧妙な変装や偽造書類を駆使して潜入工作を行っていた。同組織メンバーで、国際刑事裁判所(ICC)への潜入を試みた末に逮捕されたセルゲイ・チェルカソフ容疑者の存在は、国家間の激しい身柄引き渡し交渉を引き起こしている。ロシアのスパイ網が中南米にまで及んでいたという衝撃の実態を1日付のCNNブラジルが独占的に報じた。 PFの約3年にわたる極秘捜査により、22年には10人の関係者が特定された。いずれもブラジル国内で長期間活動しており、偽造身分証やパスポートを用いてブラジル人として生活しながら、他国での諜報活動の足がかりを築いていた。 関係者によれば、スパイらは各自に明確な偽りの背景情報を設け、それに基づいた生活を構築。ある人物はブラジリアで宝石店の経営者として振る舞い、別の人物はサンパウロ市でブラジル民族音楽を愛好する大学生として生活。また女性スパイの1人は、ファッションモデルとして各地で活動していた。 こうした「偽装生活」を通じて、彼らはブラジル人としての人物像を確立し、第三国での身分審査をすり抜け、情報収集活動や影響工作を行っていた。PFは、このネットワークがブラジルを「中立的な発信拠点」として利用していたと分析している。 10人のうち9人は既に国外へ出国しており、当局の事情聴取に応じることなく姿を消した。唯一逮捕されたのが、セルゲイ・チェルカソフ容疑者で、彼は10年からブラジルに滞在し、「ヴィクトル・ムレル」という偽名で生活していた。 ブラジルの出生証明書、納税記録、運転免許証など一連の公式文書を偽造していたとされ、長期にわたりブラジル人を装っていた。過去にはアイルランドや米国にも居住歴を持ち、米国では米中央情報局(CIA)の施設に比較的近い地域に住んでいたことが明らかに。出生証明書そのものは、ブラジルの戸籍登録所により発行された実在の書類であり、それを基に他の公的文書を取得していた可能性が指摘されている。 22年、チェルカソフ容疑者はオランダ・アムステルダムのスキポール空港で入国時に拘束され、ブラジルへの強制送還が決定。捜査によれば彼はICCでの勤務を申請する際に偽のブラジルパスポートを使用し、潜入を図っていた。 ブラジル帰国後は、偽造書類の使用容疑で直ちに逮捕された。PFの調べでは、彼の所持品から複数の偽造IDや記録文書、さらには資金洗浄に関与したとみられる銀行取引データが発見された。携帯電話には、ロシア側の指示を受け取る通信履歴や、ICCでの活動開始を報告するメッセージが残されていた。 証拠資料には、チェルカソフ容疑者がロシア政府関係者とみられる人物から月額3万5千レアル(約96万4千円)の送金を受けていた形跡も記録されていた。PFはこれらの資金が、偽装生活や渡航費の原資であったと見ている。 この事件を端緒にPFは捜査を拡大。他のスパイらも特定されており、その中には在ブラジル・ロシア大使館と関係がある人物や、在リオ・ロシア総領事館に商務担当官として登録されていた人物が含まれていたことも明らかになっている。 捜査は現在も続いており、スパイ網はブラジルのみならず、中南米諸国にまたがって存在していた可能性が高まっている。 PFは外交特権を活用したロシアのスパイ活動の可能性にも注目。外交機によるスパイのベネズエラ派遣が確認されており、そのうちの1人がブラジルを経由していた疑いがあるという。 チェルカソフ容疑者は現在、ブラジリアの最高警備刑務所に収監されており、3年にわたって勾留が続いている。その身柄を巡っては、ロシアと米国の双方が引き渡しを求めており、外交的緊張が続いている。 CIAは、同容疑者が過去に米国内でもスパイ活動を行っていたと主張しており、米政府も引き渡しを正式に要請している。PFは、米国、オーストラリア、ポルトガルなど複数の国と情報共有を行いながら捜査を進めている。 関係筋によれば、今回摘発されたネットワークは壊滅状態にあるとみられているが、一部の関係者の所在は依然として確認されておらず、捜査の終結には至っていない。チェルカソフ容疑者は、ネットワークの最終的な接点であると同時に、全容解明の「最後の鍵」とされ、PF内部では「彼の引き渡しによって捜査全体が失われる恐れがある」との懸念も強まっている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする