「ルフィ強盗団」最高幹部の獄中告白…身内の裏切りで組織が崩壊「指示役たちが最後に交わした言葉」

【前回までのあらすじ】 ’18年の夏、末端のかけ子として特殊詐欺グループに加入した小島智信被告(47)は、〝ボス〟こと渡邉優樹被告(41)に仕事ぶりを認められて頭角を現していく。 同時にグループは月に数億円単位の金額を詐取する巨大犯罪集団へと変貌した。しかし、’21年にメンバーたちは当局に次々と拘束され、小島被告らは「ルフィ広域強盗事件」の舞台となったビクータン収容所へ送られる。 ビクータンで藤田聖也(としや)被告(41)と今村磨人(きよと)被告(41)に再会した渡邉被告らは、今村被告が立案した広域強盗に手を染めるものの、失敗続き。グループ内の軋轢が強まるなか、ついに死者を出した狛江事件が発生する。 「身内に″売られた″ことで、私たちのグループは破綻したのです」 小島被告(以下、被告表記は略)は筆者とのやり取りの中で、度々グループの″黒幕″について言及してきた。 60億円もの大金を詐取できるほど緻密で組織的な詐欺グループを作り上げた渡邉たちが、なぜ稚拙で粗暴な広域強盗に手を出したのか? その謎を解き明かすカギは、小島たちがビクータン収容所に収容される前にあった。 「ルフィ強盗団」の最高幹部である小島の獄中証言から、知られざる組織の内情と事件の深淵を詳らかにしていく。 特殊詐欺では被害者を″騙す側″であったが、新たに手掛けた覚醒剤ビジネスでは仕入れ先に偽物を掴まされるなど、組織は次第に″狩られる側″となっていく。賄賂を渡して現地の権力者を利用しているつもりが、実は単なる金づるでしかなかったという側面が、小島の言葉の節々から透けて見える。 ボス(渡邉)は、ヤクザを心底嫌っていた。上納金を支払うシステムがアホらしかったからです。ヤクザなどの後ろ盾を持たない私たちのグループは、現地の政治家や警察との繋がりを大切にしていました。なぜ、そんなことができたのか。そこには、二人のフィリピン人女性の存在があります。 一人は、ボスの秘書で内縁の妻だった「ミカ」というフィリピン人の女です。グループの拠点がタイのパタヤにあった頃、グループは現地で通訳をしている「キティ」という女性と組んでいました。そのキティを通して紹介されたのがミカでした。 ミカは職業不詳ながら、フィリピンの政治家や警察に太いパイプを持っていた。ミカのおかげで私も交友関係が広がり、ビリオネアたちとも繋がり、この人脈が自分のビジネスにも活きた。藤田も同様に、元ギャングの有力者と知り合うなどコネクションを構築していった。 ミカは我々のグループにとって、なくてはならない存在でした。拠点となる事務所の用意やホテルのブッキング、メンバーのパスポートやビザの更新など、すべてミカがやっていた。顔の利くフィリピンの有力者をボスに紹介もしていた。 私たちはミカに紹介された地元警察に毎月270万円ほど支払うことで、摘発から逃れていました。実際、ミカの仲介と賄賂で当局の逮捕や拘束を免れたこともあった。 ’19年11月のグループの拠点だった「ウエストマカティホテル」の摘発をJPドラゴンが仕組んでいたと突き止めたのもミカでした。働きぶりが認められ、ボスと偽装結婚するまでに至りました。 しかし、渡邉と一緒に訪れたカジノで大金を手にしたことで、ミカの目覚ましい働きぶりに陰りが生じる。 ’19年4月、カジノでジャックポット(大当たり)を引き当てたミカは2億円の大金を手にします。以降、彼女はカジノに入り浸るようになり、人が変わっていった。 この年の7月と10月に、ボスはミカの名義でホテルを二つ購入しますが、ミカはボスとは別の男とギャンブルの沼にハマり、以前のような働きをしなくなった。彼女が組織で担っていた役割は、ミカの妹分で私のパートナーである「レニー」という女性に引き継がれ、私たちはミカと距離を置くようになりました。 ’20年5月にST箱(箱=詐欺グループのチームの呼称)トップのMの隠れ家が、11月にはST箱の拠点が当局に摘発されました。これまでのようにミカに計8000万円を支払うことでMの身柄は解放されました。 ところが、Mは摘発された物件がいずれもミカに紹介されたものだったことから″摘発はミカが仕組んだのではないか″と疑った。ボスに「ミカは信用できない」と言うMに、藤田も同調していました。私もミカを怪しんでいましたが、最終的にボスは彼女を庇いました。 ボスは’20年7月にミカから持ち掛けられたオイルの投資話に乗り、2億円を投資しました。しかし、’21年1月の時点で1円も配当が出ていなかった。この頃から、さすがのボスも「もしミカに騙されていたのなら、俺たちは終わりだ」とボヤくようになりました。 ◆信じた身内に騙され30億円を失い…ついに組織の崩壊が始まる ’21年4月、渡邉と小島とMはフィリピン当局に身柄を拘束される。小島の証言によれば、当局は「10億円支払えばすぐに解放する」と渡邉に持ちかけたという。渡邉はその申し入れを拒否し、ミカを頼った。 ミカと当局が話し合い、″1億5000万円で手を打つ″ことになりました。ボスは約束通りの金額を支払いましたが、一向に解放されない。ミカに言われるまま、追加で2億3000万円を支払ってもまだカネの無心が続く。 仕方なく、ボスは所有していた土地を売り払って5億円ほど作りました。ところが’22年1月以降、ミカと連絡がつかなくなった。結果的に私たちは20億円近い不動産、賄賂などを含めると約30億円ものカネを、ミカとフィリピン当局に騙し取られました。 私たちより少し先に藤田が拘束されましたが、あれも当時付き合っていた女がカネ目的で当局に藤田を売っただけです。藤田が所有していた現金4000万円と高級車もまんまと奪われた。 日本からの圧力でフィリピン当局が動き、私たちが逮捕されたと報道されていますが、フィリピンの当局はそんなことでは動かない。カネのために身内の女性に売られた、というのが真相です。 渡邉たちは、小島の部下を使ってミカに接触。だが、彼女は悪びれる様子もなくこう言い放ったという。 「私の犠牲は計り知れない。すべてのカネを受け取る権利がある」とミカは主張し、「フィリピン人はバカじゃない。日本人のほうがバカだ」と吐き捨てました。私たちはフィリピン人をどこか下に見ていたところがあり、その態度が彼女のプライドを傷つけていたというのです。 それにしても随分と長い間、騙されていたな……しみじみと思ったものです。 まんまと30億円ものカネを詐取された挙げ句、前稿のようにビクータン収容所内では他の外国人たちにも騙され、渡邉たちはカネを失い続けた。 ’22年9月頃からは「ルフィ」こと今村を立案役として、少なくとも16件の強盗計画を立てたとされ、小島は稲城市や山口県岩国市の事件など3件で起訴されている。 裁判や起訴内容から判断するに、’22年12月に東京都中野区で発生した強盗致傷事件以降、小島は実行犯のリクルート役から一定の距離を置いたようだが、渡邉や藤田から報告は受けていた。 小島の見解では「ボスは積極的に強盗に関わっていたようには見えなかった」という。ただ、例外があった。’23年1月、住人の女性(当時90)が殺害された東京都狛江市強盗殺人事件だ。 この頃、ボスはとにかく日本への強制送還を恐れていました。直前の広島と千葉の案件で実入りがなかったため、一刻も早く脱獄資金の3000万円を捻出する必要があった。痺れを切らしたボスが、自ら指揮に加わったのだと思います。 狛江事件の前後、詐欺グループのかけ子や詐欺犯の日本人がビクータンに収容されました。ボスと藤田から「俺たちが(組織に)引き込むから小島さんは距離を置いてくれ」と言われました。自分たちのコマを増やしたかったのでしょう。 狛江事件に臨むにあたって、ボスは私に「住宅に定点カメラの設置は可能か」と聞いてきた。その力の入りように少し驚きました。″狛江の住宅には10億円ある″という情報があったことと、ボスが差し迫った状況に置かれていたことが影響したのでしょう。 狛江事件の翌日、闇バイトのリクルート業者から小島に「人死んでますけど」と事件を報じたニュースのURLが添えられたメッセージが届いた。そこに映っていたのは、渡邉が定点カメラについて聞いてきた住宅だった。 ボスを問い詰めると、「俺よく分からないから藤田に聞いて」と突き放されました。藤田に確認すると、「あー死んだっすね。終わったことを言っても仕方ない」などと言う。彼らと関わるのをやめないと本当にヤバいと思った矢先、足立区の強盗予備事件で実行犯が逮捕されたと知り、人を殺した翌日にも平気で強盗を行う彼らの神経に絶望しました。 藤田は「キヨト君がやったんですよ」と言っていましたが、3人は更に強盗を続けようとしていた。ボスと藤田は人を殺した後も女とセックスをしていたし、今村は相変わらず覚醒剤に溺れていました。 『FRIDAY』2025年10月3・10日号より 取材・文:栗田 シメイ(ノンフィクションライター)

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