青森県弘前市の作家青本雪平さん(34)の「この配信は終了しました」(双葉社)が刊行された。インターネットの動画配信を巡るミステリー短編集5作は、ネット空間や匿名性の危うさが現実との境界を曖昧にしつつ、独特の余韻となって共感を呼ぶ。 青本さん自身、5作のうちでとりわけ気に入っていると話すのが「救済系」だ。駅や公園で行き倒れた「行旅(こうりょ)死亡人」の公的サイト閲覧が趣味の女性記者が、ある遺体情報を見つける。添付されたリュックの画像に見覚えがあり、家出少女を補導するNPOで一緒に働いていた学生時代の恋人を思い出す。リュックは少女の物で、遺体は彼なのか―。その真相に迫る。 他の4作は、人気配信者の醜聞を暴く「暴露系」、廃虚や心霊スポットにまつわる「心霊系」、配信中に姿を消し、別室で見つかった遺体について自殺か他殺か推理する「考察系」、痴漢容疑者の私人逮捕を巡り、配信者側が自殺してしまう「正義系」。 いずれも死に絡んだミステリー要素を盛り込み、結末で驚きの事実が明かされる。訴求力あふれる表紙とタイトルの妙も相まって、配信コンテンツの虚構と現実の区別が漠然となり、不思議な後味に包まれる。 時流に乗るネット配信を題材とした狙いを「フィクションも絡め『こういう世界があるんだ』と思ってもらえればいい」と青本さん。自身は配信しないため、事情に詳しい知人を取材して創作に生かしたという。 弘前市生まれ。大学中退後、小説家を目指して執筆を始めた。2019年「ぼくのすきなせんせい」で大藪春彦新人賞を受賞し、翌20年に「人鳥クインテット」(文庫版は「ペンギン殺人事件」に改題)でデビュー、前作「バールの正しい使い方」は23年度の大藪春彦賞にノミネートされた。 ミステリー短編連作の「バール―」は、父の都合で転校を繰り返す小学生が主人公。転校先では、うそつきの同級生らを冷静に観察し、カメレオンのように「擬態」を繰り返す。うそに宿る純粋な愛情と現実の残酷さが描かれ、子ども時代に誰しもが持つ優しさや切なさが胸に響く。 評判を呼び、複数の出版社から執筆依頼があった。本作もその一つだが、作風はがらりと変化させた。「筆が遅く発表作も少ないが、自分なりに幅が広がったと感じて自信につながった。今後も浅く広くいろんなジャンルに挑戦していきたい」と意欲を燃やす。 動画をはじめ、さまざまな娯楽にあふれている現代にあって「小説は残念ながら一番人気ではないが、だからこそ文章だけで世界を表現する魅力を追求したい」