名古屋市西区のアパート一室で1999年に住人女性(当時32)が殺害され、今年10月31日に容疑者が逮捕された事件では、女性の夫(69)が事件後も部屋を借り続けた。逮捕の翌日には、その部屋で現場検証が実施された。未解決となっている殺人事件では、現場となった建物が現存していないケースが多く、証拠の保全が課題の一つとなっている。 事件発生や遺体発見の現場となった建物には解決の手がかりとなる証拠が残っている可能性があり、遺族や捜査関係者にとって重要な場所だ。 名古屋市西区の殺人事件では、殺害された女性の夫が現場となったアパートを無人のまま26年間借り続けてきた。費やした家賃の総額は2千万円を超えるが、夫は容疑者の逮捕前、取材に対し「証拠を残し、犯人が捕まったときに現場検証をさせる。犯人が捕まるまで区切りはつかない」と話していた。 事件発生から約26年を経て、愛知県警は殺人容疑で容疑者を逮捕した。11月1日には、このアパートで容疑者の女(69)を立ち会わせての捜査を実施した。アパートには女のDNA型と一致する血痕が残っていたという。 95年4月28日~2023年に刑事部長を長とする捜査本部が設置された未解決殺人事件について、朝日新聞が都道府県警や警察庁に取材したところ、今年6月までに事件概要を得られたのは364件あった。このほか、条件に当てはまらないが、未解決の殺人事件を少なくとも5件確認した。名古屋市西区の事件もその一つだ。 この369件のうち、224件は被害者が建物内で発見されていた。都道府県警に現在の建物の状況を取材したところ、回答が得られた116件のうち66件で建物が現在も残っていた。一方、4割超に当たる残りの50件では建物が空き地や駐車場、新たな集合住宅などに変わっていた。宮城県では東日本大震災の津波により現場の住宅が全壊したケースがあった。 こうした背景から、警察は現場の保存について技術面で模索している。 警視庁は95年の東京都八王子市での強盗殺人事件と96年の葛飾区での殺人事件、2000年の世田谷区での強盗殺人事件について、現場の建物の模型を3Dプリンターで作った。福岡県警は現場を立体的に保存するVR技術を使った撮影機材を22年に導入した。(板倉大地)