演じる人の痛みや葛藤が役を通じてあふれ出す 映画「チョコレートドーナツ」 ゲイの男性が育児放棄された障害児を育てたという実話

やさしい人を思い浮かべただけで、心が「ホッ」とやさしくなるときがある。映画のなかのやさしい人、と考えて、まず思い浮かんだのはこの人だ。「チョコレートドーナツ」(2012年)の主人公ルディ。演じるアラン・カミングの表情と行動はまるで聖母のようなやさしさと愛に満ちている。のちに宮本亞門演出&東山紀之主演で、世界で初めて日本で舞台化された名作だ。 舞台は1979年のカリフォルニア。歌手を夢見ながらショーダンサーをしているルディは、店にやってきた男性ポール(ギャレット・ディラハント)と一目で恋に落ちる。ポールは検察官で一度は女性と結婚したものの離婚。ゲイであることを隠して生きている。LGBTQという言葉にも遠いこの時代、彼らはまだまだ差別と、ときに命の危険にすらさらされていた。 ある朝、ルディはアパートの隣室に一人でいるダウン症がある少年マルコ(アイザック・レイヴァ)と出会い、彼を気にかけるようになる。が、ほどなくしてマルコの母親が薬物所持で逮捕され、マルコは施設に連れていかれてしまう。数日後、夜の街を「うちに帰る」とさまようマルコを見かけたルディは放っておけず、自分の部屋に連れて帰る。そんなルディのやさしさが当初は静観していたポールの心を動かす。ポールは服役中の母親のサインを得て、ルディとの関係を「いとこ」だとして、マルコの監護権を得ることに成功。マルコはポールの家でルディと3人で暮らせることになる。 印象的なのはやはりDVDなどのパッケージにもなっているシーンだ。ポールの家に用意された子ども部屋に入ったマルコは背中を向けたまま「ここ、ぼくのうち?」と二人に聞く。「そうよ、ここがおうちよ」とルディが声をかけるとマルコは泣き出し、ルディはその肩をやさしく抱いて言う。「いいのよ。泣いていい。うれしいんだものね」――。このときのアラン・カミングの慈愛に満ちた表情に、グッとこずにはいられない。ホントに美しく尊いのだ!

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