サラ・レインズフォード南東欧特派員(ローマ) イタリアの下院は25日、ジェンダーを理由に女性を殺害する「フェミサイド」を独立した犯罪とする法案を、全会一致で可決した。有罪となった場合、自動的に終身刑となる。 この日は、国連が定めた「女性に対する暴力撤廃の国際デー」で、法案可決は象徴的な出来事となった。 女性に対する暴力の根絶を訴える国際女性デーに当たる3月8日に、この法案を閣議決定していた フェミサイドに関する法律の構想は、以前からイタリアで議論されていたが、22歳のジュリア・チェッケッティンさんが以前交際していた男性に殺された事件をきっかけに、法制化が一気に進んだ経緯がある。 ジュリアさんは2023年11月、フィリッポ・トゥレッタ受刑者に刺殺された。トゥレッタ受刑者は、ジュリアさんの遺体を袋に包み、湖畔に遺棄した。 この事件は容疑者の逮捕まで大きく報じられた。だが、人々に影響を与え続けたのは、ジュリアさんの女きょうだいであるエレナさんの力強い反応だった。 エレナさんは、犯人は怪物ではなく、深く根付いた家父長制社会の「健全な息子」だと訴えた。この言葉が、イタリア全土で変革を求める人々を動かした。 そして事件から2年後、下院議員らは長時間にわたる白熱した審議を経て、フェミサイドに関する法案を可決した。これによりイタリアは、フェミサイドを殺人罪とは独立した犯罪として分類する数少ない国の一つとなった。 ジョルジャ・メローニ首相が提出した法案は、強硬な右派政権だけでなく、野党議員にも支持された。多くの議員はこの日、犠牲者を追悼するために赤いリボンや赤いジャケットを身に着けていた。 イタリアは今後、ジェンダーを理由にした女性に対する殺害をすべてフェミサイドとして記録する。 フェミサイド法案を起草した専門委員会は、犯罪に共通する特徴を調べるため、女性が被害者となった最近の殺人事件211件を検証した。 委員の一人であるパオラ・ディ・ニコラ判事は、この新法の意義について、「フェミサイドは分類され、実際の文脈で研究され、存在することになる」と説明した。 判事は、ローマの自宅で調査資料に囲まれながら、「こうした犯罪を、激しい愛や強い嫉妬に根ざすものと語るのは歪曲(わいきょく)だ。文化的に容認される、ロマンチックな言葉を使っているだけだ」とも述べた。 「この法律によってイタリアは、ヨーロッパで初めて、加害者の真の動機が階層構造と権力なのだと明らかにする」 イタリアは、キプロスとマルタ、クロアチアに続き、フェミサイドの法的定義を刑法に導入した四つ目の欧州連合(EU)加盟国となる。 フェミサイドには世界的に合意された定義がない。そのため、統計を作成したり比較したりすることが難しい。 イタリアでは、女性であることを理由に「憎悪、差別、支配、制御、または従属の行為」として行われる殺人や、女性が関係を終わらせたために起こる殺人、あるいは「女性の自由を制限する」ために発生する殺人に、フェミサイド法が適用される。 同国の最新の警察データによると、昨年殺害された女性の数は116人とわずかに減少。そのうち106人が、ジェンダーが理由だったとされる。今後、こうした事件は殺人事件とは別に記録されるとともに、抑止として自動的に終身刑が適用される。 ジュリアさんの父ジーノ・チェッケッティンさんは、こうした法律が娘を救えたのか確信がもてないと話す。犯人は結局、終身刑を言い渡されたからだ。 それでも、問題を定義し議論することが重要だと、ジーノさんは考えている。 「以前は多くの人々、特に中道や極右の人々は、フェミサイドという言葉を聞きたがらなかった」と、ジーノさんはBBCに語った。 「今では、この問題について話せる世界になった。小さな一歩だが、それでも一歩だ」 ジーノさん自身は、立法ではなく教育に注目しているという。 ジュリアさんが殺された後、ジーノさんは「自分の周囲で何が起きているのかを非常に強く見つめ」、そのうえで、自分の家族が味わった苦しみを他の人々が経験しないようにするため、ジュリアさんの名を冠した財団を設立しようと決意した。 「私は(トゥレッタ受刑者の)頭に何が浮かんだのかを理解したかった」と、ジーノさんは話した。「彼は学生で、愛される息子だった。普通の男のように」 ジーノさんが見つけたのは、女性に関する固定観念や男性優位の概念に満ちた社会、そして感情をうまくコントロールできずに苦しむ若い男性たちだった。 トゥレッタ受刑者は、ジュリアさんに復縁を拒否された後、計画的な襲撃で彼女を刺殺した。 ジーノさんは現在、イタリア各地の学校や大学をめぐり、若者たちにジュリア氏さんのことや、他者の尊重について語っている。 「人生をうまく扱うための適切な道具を与えれば、フィリッポのような行動は取らないだろう。きっと違った動き方をするはずだ。スーパーマンやマッチョマンといった規範に固執しないだろう」と、ジーノさんは期待を語った。 しかし、その「道具」を学校に導入すること、つまり必修科目としての感情教育と性教育の導入は簡単ではない。 極右の議員らは、高学年向けの選択制の性教育以外には抵抗している。チェッケッティン財団は、これらの教育を義務化し、子どもがインターネットにアクセスし始める早い段階で開始することを求めている。 フェミサイド法自体にも批判がある。 今年初めに法案が初めて提出された際、ある団体はこれを「毒入りミートボール」と呼んだ。 フォッジャ大学のヴァレリア・トッレ教授(法学)は、「保護が欠如しているということでも、埋めるべき法的な空白があるということでもない」と指摘している。 同教授は、フェミサイドの新しい定義はあいまい過ぎるため、判事にとって適用するのは困難になると考えている。 さらに、イタリアで殺害される女性のほとんどは現パートナーや元パートナーによって殺されるため、動機がジェンダーであると立証するのは難しいという。 「政府が問題に対して何かしていると人々に信じさせたいだけなのではないかと懸念している」と、トッレ教授はBBCに語った。「本当に必要なのは、イタリアにおける不平等の問題を克服するため(中略)この問題により多くの経済施策を打つことだ」 フェミサイド対策の立法措置に賛成する人々でさえ、ジェンダー不平等に対する、より広範な対策が伴わなければならないと認めている。 イタリアのこうした問題は、現在ローマで開催されている「家父長制博物館」という、新しい刺激的な展示会でも示されている。 同国は現在、世界男女格差指数で85位と、EU加盟国の中でほぼ最下位に位置しており、女性の就業率は50%強にとどまるなど、課題は多い。 「私たちにとって女性に対する暴力と闘う方法は、その暴力を防ぐことだ。そして暴力を防ぐためには、平等を築かなければならない」と、この仮設博物館を創設した「アクション・エイド・イタリア」のファビアナ・コスタンティーノさんは語った。この博物館は、男性優位が過去のものとなる日を想像するために設けられたという。 展示には、女性への冷やかしの言葉を流すスピーカーや、男性に殺害された女性の名前が壁に投影される部屋などが含まれている。 「暴力には多くの形がある。それはピラミッドのようなものだ」とコスタンティーノさんは述べた。 「最悪の形であるフェミサイドという問題を破壊するためには、その土台を壊さなければならない」 フェミサイド法をめぐる長時間の審議は、25日の夜遅く、与党議員による「女性に対する暴力は容認されず、処罰を免れない」という演説で締めくくられた。 法案は237人の議員全員によって承認され、拍手が沸き起こった。 法案の起草に携わったニコラ判事は、「これは、女性に対する暴力との闘いにおいて、我が国に共通の政治的意思があることを示している」と述べたうえで、まだ長い道のりが残されていると認めた。 「これは、イタリアがようやく女性に対する暴力の深い根について語り始めたことを示している。最初の効果は、これまで直面したことのない問題について国が議論するようになることだ」 追加取材:ジュリア・トッマシ (英語記事 Italian parliament unanimously votes to make femicide a crime)