「『犬笛』に翻弄されるのは常に庶民」 権力側に踊らせていることに「気づけ」と弁護士が鳴らす警鐘

SNS上などで流布される「犬笛」。時に人の命まで奪う言動が政治家によって繰り返されている。犬笛を吹かない、吹かせないためにどう向き合えばいいのか。 * * * 「犬笛行為というのは人の命を奪ってしまうだけの凶悪性、犯罪性、加害性を持つものだということを多くの人に知ってもらいたい」 こう訴えるのは大阪弁護士会所属の弁護士、大前治さんだ。 大前さんの念頭にあるのは、兵庫県の内部告発文書問題に絡み、昨年11月に議員辞職し、今年1月に自死した竹内英明・元県議(当時50)が被った深刻な人権侵害だ。 竹内氏に関するデマをSNSで拡散して名誉を傷つけたなどとして、兵庫県警は政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者(58)を11月9日に名誉毀損容疑で逮捕= 同28日に神戸地検が同罪で起訴済み=した。生前の竹内氏のもとには、立花被告のSNS投稿などに触発されたとみられる悪意のある郵便物が届くなど誹謗中傷が相次いだという。 犬笛とは、もともとは犬の訓練用に使われる笛のことだ。人間には聴こえないが犬には聴こえる音(周波数)を発するようにできており、人間は気づかない音を使って犬にさまざまな指示が出せる。これが転じて、「限られた集団の人々のみが理解できるメッセージを、ほかの人々には気づかれないように発する言葉」を「犬笛」と呼ぶようになった。 例えば「攻撃しろ」といった直接的な呼びかけではなくても、ネット上のメッセージなどを読んだ人が行動に移してしまうような発信を指す。一方、最近の日本のSNSでは、特定の人を標的にし、サイバーリンチのような攻撃を扇動することを「犬笛」と表現しているケースがある。メッセージを受ける側が、かきたてられて行動する点は同じだが、日本では発信する側の意図が明確になっており、犬笛というよりは軍隊の「ラッパ」という指摘もある。立花氏が行ったような他者の個人情報をさらすような事例だ。 大前さんは「個人の生活の場を破壊する犬笛が横行している状況は恐ろしい」と話す。 「犬笛は法律的には集団的な脅迫や威力業務妨害の教唆に該当します。暴力団などを指す従来の『組織的』犯罪ではなく、不特定多数の個人が参加する『集団的』な犯罪である点がネットというツールの進化によってもたらされた最大の特徴であり、制御が困難な理由もそこにあります」 大前さんが看過できない「犬笛」に直面したのは今年3月。内部告発文書問題に端を発した斎藤元彦・兵庫県知事に対する賛否の世論が沸騰し、SNS上では斎藤氏の支持者と批判者の間で激しい言葉の応酬が続くさなかのことだった。 「桂米朝一門の落語家『月亭太遊』も連日Xにて誹謗中傷に勤しんでおられます」 たまたま目にしたX(旧ツイッター)の投稿で、大前さんは上方落語協会に所属していた落語家の月亭太遊さん(現在は芸名を返上)が標的にされているのを知る。くぎ付けになったのは後半の文面で、「お問い合わせはこちら」とし、吉本興業と上方落語協会の電話番号も載せ、「所属事務所『吉本興業』(エージェント契約)への通報をよろしくお願いいたします」と呼びかけるくだりだった。 「『月亭太遊さんに抗議の電話を殺到させよう』というメッセージはどこにも書かれていません。狡猾で卑怯なやり方だなと思いました。同時に、こういう書き方をしたからといって言い逃れを許すことはできない、と強く思いました」(大前さん)

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