ジャーナリストの伊藤詩織さんが、自身の性被害をテーマに監督した映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」を巡り15日に行った記者会見は、「取材源の秘匿」の原則を破ったと問題視される映像使用の正当性を終始訴える内容となった。性被害訴訟で伊藤さんの代理人を務め、映画の倫理的懸念を指摘し、自身の映像も無断で使われたとする西広陽子弁護士への謝罪の言葉はなく、逆に西広弁護士らに対する批判が展開された。 ■「弁護士の仕事に専念を」 会見は日本外国特派員協会で行われた。もともと今年2月に予定されていたが、伊藤さんの体調不良を理由に延期されていた。当時、伊藤さんはコメントを発表し、「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりおわびする」と釈明していた。 この日の会見には、かつて伊藤さんを支援し、今は伊藤さんの映画や姿勢を問題視する女性ライターやジャーナリストらも駆け付けた。そうした人たちを前に、司会者は冒頭こう述べた。 「倫理的ルールは弁護士側にも問題があるのではないか。弁護士は弁護士の仕事に専念してもらえばいい」 「いろいろな報道機関が誤った情報を広げた。許諾を得られず調査報道することはある。やくざや電力会社の犯罪について許諾を取って報道したか」 伊藤さんも「こうしてジャーナリストの皆さんと話をすることが最初は怖かった。弁護士は事実でないことを話され、それが広まった」と問題視した。 ■「外部の人は特定できない」 伊藤さんは過去に元TBS記者から性暴力を受けたとして提訴。担当警察署が準強姦容疑で逮捕状を取ったものの執行しなかった経緯が一部で報じられた。映画は、捜査員や性被害に直面した女性記者らの理解を得ながら真相を解明する過程や心の葛藤を描いた。60カ国で上映され、6月には優れた報道番組などに贈られる米ピーボディ賞を受賞した。 映画を巡っては、伊藤さんの取材に協力した捜査員の音声や現場となったホテルの防犯カメラの映像が、無断で使用されたと問題となった。音声や映像には一定の加工が施され、伊藤さんは会見で「外部の人が特定することはできない」と主張した。 記者から、捜査員が誰か警察組織内で特定される懸念があると問われると、伊藤さんは「よくわからない」と述べ、笑いながら、音声や映像の使用は「(性暴力)サバイバーとしての権利だ。なぜ逮捕が阻止されたのか、知る権利がある」と語った。