アミル・アジミ、BBCニュース・ペルシャ語 イランの街頭で抗議デモが続いている。イランで街頭デモは珍しくもないが、今回はいくつかの要因から、非常に深刻なものとなっている。 現在のデモは5日で9日目に入った。4、5日目にはすでに、アメリカのドナルド・トランプ大統領がイランの指導者らに対し、デモ参加者らへの対応についてアメリカは「臨戦態勢」にあると、直接的な警告を発していた。その後、アメリカの特殊部隊が、ヴェネズエラでニコラス・マドゥロ大統領を標的にした作戦を実施。4日に2度目の警告が出された。 抗議デモがまだ続く最中に、アメリカの現職大統領がこうした直接的かつ潜在的な脅しをかけるのは極めて異例だ。デモ参加者らはこれに勇気づけられ、抗議行動が拡大する可能性がある。 イランの警察と治安部隊は、デモが始まった直後から暴力的な対応を取ってきた。人権団体は、これまでに20人以上が殺害されたとしている。そうした状況で、トランプ氏の動向が注目されている。 今回の抗議デモは昨年12月28日の日曜日に、平和的に始まった。当初はインフレによる物価高騰と、自国通貨が対米ドルで急落したことへの国民の怒りが原動力となった。イランの通貨リアルに対して米ドルは現在、1年前と比べ約8割高となっている。 イラン経済は深刻に悪化しており、今年も来年も成長はほぼ見込めない。公式の年間インフレ率は約42%で、食品インフレ率は70%を超える。一部の生活必需品は110%以上値上がりしているとされる。 ■政府が弱い立場に 経済状況の悪化は、アメリカ主導の国際的な制裁によるところが大きい。だが、それがすべてではない。 複数のイラン高官とその家族が関わった汚職事件の裁判を通じて、国民の怒りが強まった。支配層の一部が経済危機に便乗しているとの見方も、国民の間で強まった。 一般国民の多くは、特定の高官らとその親族が、特別な取り決めを通じて、制裁から利益を直接得ていると考えている。輸出入をコントロールし、石油関連の収入を外国に移し、マネーロンダリング(資金洗浄)ネットワークから利益を得るという、特別な取り決めがあると多くの国民は考えている。 現地で「制裁利得者」と呼ばれる人々の方が、制裁そのものよりも悪いという認識は、政府関係者の間でさえ広がっている。 首都テヘランの大規模市場グランド・バザールの商人たちは、公然と抗議行動を始めた最初のグループの一つだった。日々の目まぐるしい為替変動を受けて店を閉め、市場安定化の介入を政府に求めて街頭に立ったのだった。 デモはすぐにバザール関係者から、社会の他の層へと広がっていった。かけ声は経済に関するものから政治に関するものへと変わり、イスラム共和制そのものの撤廃を求める声も上がった。 学生たちに続き、他市町の小規模事業所の労働者らや一般国民たちも参加した。数日もたたないうちに、イランの最高指導者に反対するかけ声が今回のデモでも目立つようになった。 似たような全国規模の情勢不安がイランで最後に見られたのは4年前だ。当時は、道徳警察に拘束された若い女性マサ・アミニ氏が死亡したことを受け、1979年のイラン革命以降で最も広範な反政府デモが巻き起こった。 その時のデモは、のちに「マサ運動」あるいは「女性、生命、自由」として知られるようになった。国家の根幹を揺るがしたが、最終的には武力と多数の人々の逮捕で鎮圧された。 今回の抗議デモは急速に広がり、何日も続いているが、2022年のデモほどの規模や勢いにはまだ達していない。 イランのジャーナリストらは多大な圧力を受け、締め付けられている。独立した国際報道機関はイラン国内からの報道が認められないか、認められたとしても移動が厳しく制限されている。 その結果、伝わる情報の多くは、ソーシャルメディアや、人々が街角で見たり記録したりしたことを共有することで広がる。このことは、検証をいっそう難しくしている。特にソーシャルメディアは、でっち上げ、根拠のない主張、ゆがめられた現実の豊かな土壌になり得る。そればかりか、人工知能(AI)の台頭で偽情報の危険は深刻化している。 こうした背景から、現在の状況は2022年よりも深刻な結果をもたらすかもしれないと、イランに注目する多くの人は考えている。イラン政府はここ数十年で最も弱体化している、国内不安による圧力と、激変した地域情勢の圧力を、両方同時に受けているというのが、大方の見方だ。 ■挫折の連続 2025年夏のイランとイスラエルによる「12日間戦争」は転機となった。この紛争は、アメリカが、イランの核施設への空爆を含めた直接関与に乗り出して終了した。 この戦争は、イランの国防能力、核インフラ、いくつかの軍事・工業用地に深刻な損害をもたらした。 同時に、イランの中東地域での立場も悪化した。シリアのバッシャール・アル・アサド政権が崩壊したことで、イランは重要な同盟国を失った。イスラエルによるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの継続的な攻撃で、ヒズボラの幹部は大半が排除された。 さらに最近では、アメリカがヴェネズエラで作戦を展開し、マドゥロ大統領と妻シリア・フロレス氏を拘束。イランの国外での選択肢はさらに狭まった。 こうした動きによって、イランを取り巻く地域的・国際的環境は塗り替えられている。イランは現在、地域紛争で頼れる同盟国が減り、石油収入を国外に移すルートも少なくなっている。 この意義は大きい。なぜなら、イランはロシアとともにヴェネズエラの石油部門に深く関わってきたし、イランが頼りにしている複雑な金銭のやり取りは中国にあるとされる市場と結びついているからだ。 こうしたネットワークが機能しなくなることで、ただでさえ内政圧力が高まるイランでは、経済の弱さがいっそう深刻化している。 高齢の最高指導者アリ・ハメネイ師は、長年のイラン統治の中でも特に不確実な局面に直面している様子だ。 イランに変わって中東で活動する代理勢力、制裁回避メカニズム、核インフラという仕組みを構築するため、イランは30年以上にわたって周到に計画を重ねてきた。しかし、今やそれが比較的短期間のうちに損なわれたり破壊されたりしているのだ。 トランプ氏がホワイトハウスに戻り、イスラエルではベンヤミン・ネタニヤフ首相が権力を握っている。そうした状況では、多大な代償を払わずに現在の危機を脱する明確な外交的、戦略的な道筋はなさそうだ。 ハメネイ師と側近らは長年、地域の同盟国や核開発プログラムへの巨額の支出を、イランの長期的な安全保障と技術進歩のために必要な投資だとして正当化してきた。 その主張は今では、ますます空虚に感じられる。国の内外で圧力が強まるにつれ、そうした政策の究極の見返りだと前は説明されていた自国の安全保障が、かつてないほど遠いもののように思われている。 (英語記事 Protests and US warnings shake Iran at its weakest point in years)