筆者がホームシアターを始めたころ、ヤマハのマルチchシステムを使っていた。特に気に入っていたのが “Soavoシリーズ” であり、ナチュラルな歌声や楽器の響き渡る音色に魅了された。しかしながらSoavoシリーズの生産終了後、同シリーズに置き換わるプレミアムなマルチchシステムは、未だ登場していない。 現行モデルで代替するなら、ヤマハのどのモデルになるだろうか。そこで今回、 “NSシリーズ” のプレミアムHi-Fiスピーカーとしてラインナップされているスピーカーをメインとする、マルチchシステムの構築が思いついた。プレミアムHi-Fiスピーカーシリーズの実力を活かすことで、Soavoシリーズに勝る、実質的な後継機探しを実施してみたい。 ■「ハーモニアスダイアフラム」で自然な音を実現するHi-Fiモデルでマルチchシステムを組む NSシリーズのプレミアムHi-Fiスピーカーは、「NS-5000」や「NS-3000」などの大型ブックシェルフ型スピーカーだけでなく、フロア型「NS-2000A」、ブックシェルフ型「NS-800A」「NS-600A」といったモデルがラインナップされている。 全てのユニットに「ZYLON(ザイロン)」や、グランドピアノの響板にも使われているスプルース材等を混抄した新開発の「ハーモニアスダイアフラム」を採用し、全帯域にわたって自然かつ正確な音色表現を実現しているスピーカー群だ。 マルチchシステムにおいてフロントスピーカーは、音声データの主要成分を担う重要な存在だ。特に音場に深みとスケール感を得たいので、サイズが最も大きく、再生帯域が広いNS-2000Aを選んだ。 センタースピーカーは、音声データのセリフを担う存在だが、NSシリーズには専用設計品がない。そこで3機種の中からNS-800Aを選ぶ。 ブックシェルフ型なのでスクリーン真下でも設置しやすく、ユニットが垂直に並んでいるので広いスイートスポットの確保ができるのがメリットだ。サイズは大きければ大きいほうがフロントスピーカーとの親和性が高いため、NS-800Aをセンターに持ってきた。 サラウンドスピーカーは、空間の広がりや包囲感を担う存在のため、コンパクトなNS-600Aを組み合わせた。NS-800Aよりも筐体が小さいことでレスポンスが良く、環境や残響音を素早く耳元に届けてくれるので、ホームシアターでは最適だと考えた次第だ。 試聴取材では、音元出版の試聴室に組み込まれている、イクリプスのサブウーファー「TD725SWMK2」、高さ方向のスピーカーとしてブックシェルフ型スピーカー「TD508MK4」を使用した。音のキレやレスポンスも良いため、NSシリーズの3機種とマッチングしやすそうだ。また、AVアンプには、ヤマハのフラグシップモデル「RX-A8A」を導入し、万全のシステムで試聴に挑んだ。 ■とても分析力の高いスピーカーであるため、音のディティールを明確に描き分ける 早速、NS-2000A/NS-800A/NS-600Aのマルチchシステムによる音を聴いていこう。音質モードは「STRAIGHT」を選択して、筆者がリファレンスとしている映画『トップガン マーヴェリック』(4K UHD BD)を視聴した。 飛行機が上空めがけて離陸するシーンでは、アフターバーナーの出力による音圧差がきちんと再現され、飛行機が左リアから右フロントに音が流れに沿って移り替わっていく明確に伝わり、ミサイルが雪山や飛行機に着弾するその瞬間まで描き分けてくれる。とても分析力が高いため、『トップガン マーヴェリック』の作品性をきちんと楽しめた。 アニメ映画では、DTS-HD Master Audio 5.1chおよびリニアPCM(サラウンド)が収録されている珍しいパッケージで、アニメ放送してから30周年経ったとしても注目している『逮捕しちゃうぞ the MOVIE』(BD)を聴いていこう。 不発弾の処理シーンを視聴してみると、視聴室全体に工場跡地における空気が乾いたような静けさが広がり、不発弾を処理する際の金属音が響き渡った。音はスピーカーから鳴っているはずなのに、その存在は消え、筆者もその場にいるような緊張感が得られ、現実に起きているかのような錯覚をした。 ■セリフの基本的な強弱から息継ぎの瞬間、微妙な声のゆらぎまでも忠実に再現する 音楽ライブからは、筆者もリアルで見に行き会場の雰囲気を知っている『WHITE ALBUM2 CONCERT』(BD)をチョイス。その中でも楽器群の音が良くわかるピアノカルテット構成の「あの頃のように」を視聴した。 ホールの冷たく乾いたような空間が見事に再現されている。ピアノは1音1音の伸びが良く余韻が豊かで、弦楽器は音が重なったときのハーモニーが美しい。複数の楽器が同時に演奏される中で、ピアノはハーモニーを支え、ヴァイオリンはメロディ、チェロは土台をそれぞれの役割をしっかりとくみ取って再現してくれる音楽性を高く感じた。 音質モードを「SOROUND:AI」に選択してアニメを2本用意した。まずは『WHITE ALBUM VOL.4』(BD)のヒロインが手紙を読み上げるシーンを視聴した。セリフだけというアニメ作品では、稀な演出であり再現が難しいが、しっかりとセリフだけの空間を見事に表現している。 セリフの基本的な強弱はもちろん、息継ぎの瞬間や微妙な声のゆらぎも忠実に拾って出力してくれるので、2chモニタースピーカーのバランスでマルチchサラウンドを聞いているような感覚があり、“悲しみ” や “苦しさ” などの感情の裏側にあるグラデーション要素も引っ張り上げるような、クリエイティブな印象も受けた。 アニメ『D.C.~ダ・カーポ~ Blu-ray BOX 』のDisc8を視聴。一般的な本編というより、冒頭のお酒を飲むシーンが細かい部分の音数が多く、気になったのでリファレンスとして取り入れた。 グラスにウィスキーを注ぐ「ドクドク」した音が本物のようなリアルさがあり、グラスに氷が触れるときの音、グラスを机に置いたときの音による無骨な響き具合が細部にまで表現し、マルチchサラウンドとして部屋全体に響き渡る。普段なら聞き逃してしまいそうな部分ではあるが、NSシリーズなら聞き逃さない。 ■Hi-Fiオーディオも両立できるホームシアターの構築に最適なプレミアムスピーカー NS-2000A/NS-800A/NS-600Aのマルチchシステムでの試聴をしてみて、どのコンテンツにおいてもスピーカーが消えるような不純物のない広い空間表現を感じることができた。音の分析力も高く、ディスクに含まれているデータをきちんと再現し、中々に表現が難しいニュアンスも耳元までダイレクトに感じ取れた。 2ch音源をAVアンプのDSPを使って疑似サラウンドにした場合でも、スピーカー同士のバランスが良いので、違和感なく聞こえるのも魅力的であった。スピーカーで音楽性も芸術性も楽しめるのは、音楽に携わる総合メーカーだからできる技であろう。 今回の3機種でのマルチchシステムは、実際に試聴した上で改めてお薦めしたいシステムとなった。Hi-Fiオーディオをメインとしたアイテムなので音に対して聴きごたえがあるし、音が敏感なのでオーディオアクセサリーやセッティングで自分らしい音を極めることもできる。 なによりも、音が上品で素晴らしい。「Hi-Fiオーディオゆずりのホームシアター」や「Hi-Fiオーディオとホームシアターを両立したい」、そんなシステムを構築したいユーザーにとって、今回のようなHi-Fiオーディオをメインとしてスピーカーシステムは最適解であろう。だからこそ、ヤマハのセンタースピーカーやハイトスピーカー、サブウーファーの誕生に期待したくなる。 ■[SPEC] 「NS-2000A」 ●形式:3ウェイ・バスレフ型 ●ドライバーユニット:30mm ドーム型トゥイーター、80mmドーム型ミッドレンジ、160mm コーン型ウーファー×2 ●再生周波数帯域:34Hz – 65kHz ●クロスオーバー周波数:750Hz/3.5kHz ●能率:88dB ●インピーダンス:6Ω ●外形寸法:330W×1124H×459Dmm ●質量:34.6kg 「NS-800A」 ●形式:2ウェイ・バスレフ型 ●ドライバーユニット:30mm ドーム型トゥイーター、160mm コーン型ウーファー ●再生周波数帯域:40Hz – 65kHz ●クロスオーバー周波数:2.6kHz ●能率:86.5dB ●インピーダンス:6Ω ●外形寸法:231W×420H×358Dmm ●質量:13.0kg 「NS-600A」 ●形式:2ウェイ・バスレフ型 ●ドライバーユニット:30mm ドーム型トゥイーター、130mm コーン型ウーファー ●再生周波数帯域:47Hz – 65kHz ●クロスオーバー周波数:2.6kHz ●能率:85.5dB ●インピーダンス:6Ω ●外形寸法:207W×383H×329Dmm ●質量:9.9kg