和歌山県紀の川市で2015年、小学5年の男児が刺殺された事件で、男児の父親(77)が昨年末、殺人などの罪で受刑中の男(33)と刑務所で面会した。事件後、初めて直接謝罪されたといい、父親は取材に「階段を一つ上がれたのかな」と話した。今月5日で事件から11年になる。 殺害されたのは、森田都史(とし)君(当時11)。紀の川市内の空き地で15年2月5日、胸などを刃物で刺されて亡くなった。2日後、近くに住む当時22歳だった男が、殺人容疑で県警に逮捕された。 父親の悦雄さんはすべての裁判に通った。男が「僕はやっていない」と発言することもあり、事件に向き合っていないと感じていた。男は19年7月に懲役16年の判決が確定し、刑務所に入った。 悦雄さんは、被害者や遺族の思いを受刑者に伝えられる「心情等伝達制度」を知る。24年9月、男の受刑先の職員に遺族としての思いを伝える書面を託した。 男は「毎年2月5日は、被害者に手を合わせています。すみませんでした」と答えたと、刑務所から届いた書類にあった。 その後、男から直筆の手紙が届くようになり、面会の約束を取り付けた。だが日程が決まらぬまま、数カ月ほど手紙が途絶えてしまう。 25年12月26日。悦雄さんは断られるのを覚悟で男の受刑先に向かった。 刑務所の面会室に通された。透明な仕切り板越しに向かい合い、男に「どういう思いで、今まで過ごしてきたのか」と話しかけた。 男は何か言葉を口にしているが、仕切り板に耳を近づけても聞きとれない。 それでも語りかける中で――。 「大変な事件を起こして申し訳ございませんでした」。男はそう言うと、頭を下げた。30分ほどの面会で、ただ一つ聞きとれた言葉だった。(松永和彦)