インド映画の大ヒット作「RRR」のS・S・ラージャマウリ監督が「心が温まり、独特のユーモアに最後まで引き込まれた」と絶賛したという。 6日公開の「ツーリストファミリー」はユーチューバーとして活動してきたアビシャン・ジーヴィント監督の長編デビュー作。一拍おいたような独特のテンポと、往年の人情喜劇をほうふつとさせるおっとりとしたユーモアにホッとさせられる。 政情不安のスリランカから南インドに密入国した一家4人は、上陸した砂浜であえなく警察に逮捕されるが、次男ムッリの機転でお目こぼしとなる。おませな子どもと優しいお巡りさんの牧歌的なやりとりは、まさに人情喜劇の定番だ。 ユーチューバーとしての人間観察のたまものか。一歩間違えればわざとらしく見えてしまうお巡りさんの心情の変化が、まるで自然に見えてくる。ジーヴィント監督のそんな手腕がこの作品を成立させている。 人懐こく、おせっかいな一家は、移住先の街でいつの間にか人気者になり、薄まっていたご近所付き合いをひと昔前の村落のように盛り上げて、いつの間にか中心的な存在になってしまう。 一方、市の中心部では爆発騒ぎが起こり、警察は「テロ事件」として不法移民の取り締まりを強化する。安住の地を得たかに見えた一家の元にも捜査の手が迫り…。 背景には四半世紀にわたって混乱が続くスリランカと、その経済難民が押し寄せているインドの現実があるが、映画はこのシリアスな問題を異文化への思いやりと隣人愛という限りなくお人よし視点で描いている。 舞台となる南インド・チェンナイもスリランカもタミル語をベースにした地域だそうだが、スリランカの人たちが使う言葉は大都市チェンナイの人たちには古風で妙にていねいに聞こえるようだ。サムライ言葉を聞くような感覚と想像する。 字幕にもその感覚が反映されていて、違和感やそれでも嫌な感じではない、チェンナイ住民たちの受け止め方が伝わってくる。 この言語感覚が最後の見せ場につながる重大要素なので、一家の発音と字幕には注目だ。 長尺の多いインド映画には珍しく、2時間7分の世界標準。分断、対立の世に一服の清涼剤となることは間違いない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)