いま「エプスタイン文書」の内容をめぐって、アメリカ、そして日本でも注目が集まっている。 トランプ大統領は、一般教書演説で「アメリカは今まで以上に大きく、洗練され、豊かに、そして強くなって戻ってきた。これからどんどん良くなる。アメリカの黄金時代だ」と、トランプ節をさく裂。「民主党は誰も起立しないのか。連中はどうかしている」と言い放つと、共和党議員らは「USA」と連呼した。トランプ氏を支えるのは、MAGAと呼ばれる熱狂的な支持者たちだ。 アメリカ取材歴の長い、動画メディア「インサイダ」の中丸徹編集長によれば、その一部の支持者たちは、トランプ氏の唱える根拠のない主張や陰謀論を信じているというが、いま彼らはこう思っているのではないかと推測する。「彼らは、『ほら、やっぱりディープステート(闇の政府)は本当だったじゃないか。闇でエスタブリッシュたちが子どもを食っていると言われたが、実際に子どもを食い物にしていたじゃないか』と」。 国際政治学者で同志社大学大学院の三牧聖子教授も、「ディープステートの解体を国民・有権者に対する約束として掲げて選挙戦を戦って、処罰されなかったエリートが、ついに暴かれて、闇が暴かれるのだと、期待した支持者は決して少なくなかったと思う。でも自分にとって不都合な内容も含まれているということが分かり、全容解明、全開示には後ろ向きになった」と解説する。 エプスタイン文書とは2019年、勾留中に自殺した富豪、ジェフリー・エプスタイン氏に関するもので、未成年の少女らに対する性的人身売買事件の捜査資料とされる。2026年1月、動画2000本以上、画像18万点を含む300万ページ以上の資料が公開された。 “メモ魔”と言われていたエプスタイン氏は、華麗なる交遊録を写真、動画、文章など、さまざまな形で残していた。中丸氏は「すでにこの世にいないエプスタイン氏だが、彼が残した交遊録はさまざまな疑惑を呼び、アメリカでは『実名が載っていればクロ』と扱われるほど、時空を超えて『デスノート』化していると言える」と指摘する。 文書には、トランプ氏が1996年までに、エプスタイン氏のプライベートジェット機に少なくとも8回搭乗していたことや、エプスタイン氏と親交があったことで知られるビル・クリントン元大統領、エプスタイン氏が所有する島とみられる場所で写る画像が公開されたハワード・ラトニック商務長官、その他にスティーブ・バノン元大統領首席戦略官、イギリスのアンドリュー元王子、ピーター・マンデルソン元駐米大使、ビジネス界からはビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏、映画監督のブレット・ラトナー氏など、ビッグネームたちの実名がずらりと並んだ。 関わりを取り沙汰された多くのビッグネームたちは、それを否定するも、三牧氏は「2008年に少女の売春の斡旋容疑で一度有罪になって、性犯罪者として登録もされている。2008年以降に関わった人物が今辞任ドミノになっている。エプスタインの犯罪行為に関わってなくても、性犯罪で捕まって有罪判決も受けている人物と、親しく交流しているということが今発覚している」と語る。 ゲイツ氏は、インドでの講演を急遽中止し、エプスタイン氏と関わりがあったことを謝罪。不倫があったことも自白する事態になった。 イギリスのアンドリュー元王子は、エプスタイン氏への機密情報漏えい疑惑で逮捕。マンデルソン元駐米大使も同じ罪で逮捕され、スターマー首相は任命責任を問われている。 バスタブでくつろぐ写真が取り沙汰されているクリントン元大統領の聴取は、非公開で行われた。クリントン氏はXの動画で、「エプスタイン氏の犯罪行為を全く知らなかった。何も見ていないし、間違ったことはしていない」と関与を否定している。 エプスタイン文書の影響は日本まで飛び火している。米司法省の資料によると、マネックス証券の創業者・松本大氏は「6月27日にニューヨークにいる予定です。お会いしましょうか?」、エプスタイン氏が「ええ。到着が近づいたら詳細を詰めましょう」とのやり取りが。実際に対面したことが明らかとなった。松本氏はブログに「結果として会ったことは悔やまれますが、やましいことは一点もございません」と記した。 その面会のきっかけを作ったとされるのが、千葉工業大学の伊藤穣一学長だ。エプスタイン文書には伊藤氏と見られる名前が1万回近く登場する。マサチューセッツ工科大学「メディアラボ」の所長だった伊藤氏は、エプスタイン氏から資金提供を受けていたことから2019年に所長を辞任。エプスタイン氏の当時の恋人や友人が来日する際、日本料理の体験教室に行くことなどを相談するメールも残されている。 千葉工業大学は、改めて伊藤氏に確認したうえでコメントを発表した。「本人は犯罪行為や不正行為には一切関与していない。そのような行為を目撃したこともないといったことでしたので、大学として問題がないと認識しております」。 2025年11月、トランプ氏がエプスタイン文書の公開を義務付ける法案に署名した。なぜ疑惑の矛先が向けられるとわかっていながら、公開をOKしたのだろうか。「トランプ氏は逃げ切れるという自信があったのか、身の潔白を証明できる証拠があったのか、それとも不都合な箇所は黒塗りにするのか。ともかく公開しないとなれば、疑惑が深まるだけと判断したのかもしれない」(中丸氏)。 エプスタイン氏は、その経歴の多くがベールに包まれている。1953年にニューヨークで生まれ、大学中退後の1975年ごろ高校の数学教師の職に就く。1976年に教え子の父親がきっかけで大手投資銀行に入社し、異例の出世。下着メーカー会長に気に入られ、資産を任される。そして社交界デビューによりセレブ人脈を開拓し、性的接待の島を開発(未成年少女を人身売買疑惑)。2019年に未成年に対する性的虐待容疑で逮捕され、拘置所で自殺した。 三牧氏は「資金提供等で人の心に付け入る。本人にとっては流出したらまずいような動画や写真を撮って、私はそういうものを握っているよと、ある種脅し的なこともできる。人の心を操る類まれな才能というのがあった」と話す。富豪たちの弱みを握り、気づけば1000億円ほどの資産を形成したとも言われている。 連邦議会の公聴会では、トランプ大統領の側近の1人、ボンディ司法長官が「何も言わないで。あなたは落ちこぼれの弁護士よ。弁護士ですらない」と語気を強めた。エプスタイン文書について激しい追及にあうと、民主党議員の「何人起訴したか」との質問に、「私が答えたいように答える。この演出はばかげている」などと返答した。 黒塗りだらけの資料公開に不平を漏らす国民も多く、残りの資料も不透明なまま。三牧氏は、「大問題だが、被害者の名前を伏せてない箇所があり、反面明らかに被害者ではないという文脈で黒塗りが大量にあり、そこで憶測を生んでしまっている。加害者や関係者が黒塗りになっているのではないか(という臆測だ)。まだまだ今出ている以上の人たちが、300万ページにいる可能性もある」と見る。 政財界のみならず、王室、学術界にも影響を及ぼすエプスタイン文書。今週、トランプ大統領を告発した女性に関する50ページほどの資料が非公開にされていると報じられた。「(トランプ氏は)クリントン氏を筆頭に民主党にダメージになるという政治的な思惑もなかったわけではない。現役の大統領、商務長官、ちゃんと出てきて説明すべきという、そういう意見が高まっている」(三牧氏)。 エプスタイン文書は、陰謀論がヒートアップ。陰謀論マニアも熱い視線を送っている。「都市伝説を語る会」を主宰するニコラ・テツヤ氏は、「何年も前から都市伝説界隈では言われていた。それが媒体を変え大規模に報道されている印象。今になって本当だったんだなと。勾留されてから、すぐ不審死を遂げている点。その事実が公にされては困る人たちが、口封じのために殺したという。おそらく氷山の一角ではないかなとは思う。第2第3のエプスタインと呼ばれる人たちが存在すると思う」とコメントした。 エプスタイン問題について、中丸氏が解説する。 「大まかな経歴は分かっているが、見ていくと『なぜか?』という言葉がついて回る人だ。ニューヨーク大学を中退しているが、なぜかニューショークの超名門高校の数学教師の職に就く。やはり高校の先生としてはダメだよねということで、クビになるが、なぜか超名門校の教え子の父親のコネで大手の投資銀行に入る。コネで入っているが、異例の出世を遂げる。そのうちに資産運用に詳しくなっていくが、ヴィクトリアズ・シークレットというアメリカの超有名下着メーカーの会長に気に入られ、『資産を全部扱ってくれ』と任される。これらをきっかけに社交界デビューして、セレブ人脈を開拓していった」その後「島を一つ買ってそこに頻繁にセレブを呼んではパーティーをしていた。ここで性的なことが行われていたんじゃないかと今調べが進んでいる」。 エプスタイン氏は2008年に、少女への性的虐待で起訴・有罪判決を受けている。「エプスタイン氏に性的な被害を受けたという少女が現れて告発をしたが、捜査の結果、性的虐待では起訴されず、なぜか売春あっせんの軽い罪に変わった。その件では有罪になって性犯罪者としては登録された。そしてまたセレブの世界に戻ってくる。また告発者が現れて、2019年に性的虐待容疑で逮捕され、拘置所で自殺した。消されたという指摘もある。経歴を見ると、なぜ気に入られて出世していくのか、まだまだ謎が残されている人物だ」という。 そしてエプスタイン文書については、「文書と言っても、一つのファイルみたいなものがあるわけではなく、エプスタイン氏が色々な関係者とやり取りしたメールの膨大な記録。島とかでは監視カメラがあって、セレブが来た時の様子をいちいち撮影、収録している画像のデータ。これらを合わせてエプスタイン文書と呼んでいる。これはアメリカの司法庁のページで公開されていて誰でも見ることができる。ところが、公開はされたが一部黒塗りだった。50ページに及ぶトランプ大統領関連の文書が公開されていないと指摘され、そこには『未成年の女性が昔のトランプ氏に性的被害を受けた』という訴えのヒアリングの文書があったとNPRラジオが報じた。ホワイトハウス側はトランプ大統領はそのようなことはなく無実だと説明している段階だ」と説明する。 トランプ支持者の中には「『ディープステートという闇の政府が、アメリカ政府の背後にあり、そこでは悪魔崇拝者で小児性愛者のエリートたちが、子どもを食い物にして、肉を食べることもある』といっていて、ハリウッドや民主党のエリートたちがそういうことをしていると陰謀論で語られていた」というが、「エプスタイン文書を見ると、『一部本当ではないか。少女を食い物にしていたんじゃないか。陰謀論者からするとやっぱりあったんじゃないか』と。本当に出てきたというところが衝撃なところだ」とする。 「エプスタイン氏は非常にメモ魔で、例えばビル・ゲイツ氏の不倫の証拠をつかんだみたいなことを自分から自分宛てにメールを送っている。サーバーと言うか、後で記録として見られるように。それが自身が死んだ後にこうして出てきている。ビル・ゲイツ氏に関しては不倫がエプスタイン氏にバレたことは認めている。少女のことは置いておいて。記録が膨大にあり、おそらくはそれを脅しに使っていたのだろう。それがなぜか異例の出世や、なぜか罪が軽くなる答えなのかなと推測させるところがある」とも語る。「エプスタイン文書に名前が出ていたイコールそういう犯罪をしていたということにはまだなってはいない。300万ページもあるので、まさにこれから証拠を調べていかないといけないところだ」 エプスタイン文書にはビッグネームが多数登場する。「トランプ大統領はエプスタイン氏の島に行ったことはないし、飛行機にも乗ったことはないとSNSで言っていた。しかし今回、文書の中で8回飛行機、プライベートジェットにのっていたことが明らかになった」。 クリントン元大統領については「写真がたくさんでてきた。ジャグジーに入るクリントン氏とともに女性が写真に写っていたが、その女性は誰か知らないと公聴会で証言した。ジャグジーに一緒に入って、誰だか分からないというのは、なかなか信じられない」とした。加えて、「日米貿易交渉で前面に出ているラトニック商務長官も、昔たまたまエプスタイン氏と同じマンションに住んでいて、1回誘われたことがあるが、それ以降会っていないと言っていた。ただ今回、島に行っていたらしいという画像が出てきた」という。 挙がった名前で言えば「一番の衝撃は、英アンドリュー元王子」だ。「エリザベス女王の息子で、今のチャールズ国王の弟。今回逮捕されたのは、『イギリスの機密情報をエプスタイン氏に漏らした』という容疑で性的なことではないが、性的な被害を受けたという女性が現れて、民事でお金を払って和解した。なので、何らかはあったと思われている」。 「イーロン・マクス氏は一度、エプスタイン氏に『あなたの島の一番ワイルドなパーティーはいつあるの?』と聞いている、と文書に出てきた。『聞いただけで、何が悪いのか知らないよ』という態度だ。アンドリュー元王子らの機密漏洩ではなく、性的な部分が証明されて逮捕に至るかはこれからだ」 今後はどうなるのだろうか。「膨大な証拠があり、メディアも全部チェックできていない。精査が進んで何が出てくるのか、これからニュースもどんどん出てくると思う。争点はトランプ大統領の関与がどこまでかだ。中間選挙を控える中で、当然民主党側は一生懸命やってくる。50ページ伏せられた文書には何が書かれていたのか。なぜその公開を避けたのかも含めてオープンなったとき、まずいことがあれば相当大きなダメージが出る」と解説した。 (『ABEMA的ニュースショー』より)