トヨタ・カローラで2万6000キロの縦断取材!毎日新聞ベテラン記者が見た「アメリカ民主主義」の現在地とは?

毎日新聞のベテラン記者の國枝すみれさんは、2024年の大統領選にトランプが再出馬すると知ってアメリカ長期取材を思い立った。 20年の大統領選の敗北を今も認めないトランプ。そんな男が再び権力を握れば、アメリカだけではなく世界にとっての激震と直感したからだ。 かくして、取材費も出ない中、車を購入して24年6月から丸1年、約2万6000キロの「アメリカの民主主義を探る」取材旅行を敢行した。その報告が『アメリカ 崩壊の地をゆく』(毎日新聞出版)である。 ―― 四駆のカローラでアメリカを縦横に駆け巡ったわけですね。ご自分では「ノマド(住所不定)記者」と書かれていますが? 「節約第一ですから、スーパーで総菜買ってパンかじりながら運転です。泊まるのは友人宅や民泊や安宿、そこでも持参の炊飯器でご飯炊いてクーラーから味噌・醤油を取り出して自炊です。おかげで最底辺からアメリカ社会を見て回ることができました」 「現場を見たい」という記者としての危機意識が「ノマド」取材を可能にしたのだ。 ―― MAGA(「アメリカを再び偉大な国に(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」というスローガンを信じる熱狂的なトランプ支持者)を集中して取材した理由は? 「アメリカの民主主義がどうなるのかを探るためには、MAGA取材は欠かせません。21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件(以下、議事堂事件)に関与した人々に聞きたかったのです。なぜ民主主義の象徴である議会を攻撃したのか、今は後悔しているのか、と」 20年の大統領選の結果を覆そうとしたトランプに同調し、MAGAは大挙して議事堂に突入。建物を破壊し警備の警官に暴行を加えた。その結果約1600人が逮捕され、数百人が収監された。第1章は、自身も議事堂事件で執行猶予になりながら、出所者に住居と就職を斡旋している40歳の女性への体当たりインタビューから始まる。 ―― その後、議事堂への突入で主体となった極右反政府組織ミリシア(民兵)の各グループの取材ですね。彼らミリシアはMAGAの有力な一翼ですが、MAGAは一体いつ台頭したのでしょうか? この時ですか、それとも17年のトランプ政権第一期から? 「いや、それよりもっと前ですね」 國枝さんによれば、トランプは15年6月、翌16年の大統領選に立候補することを宣言し、「アメリカを再び偉大な国にする」と宣言した。その時、「アメリカは世界の笑い者になっている」として、南の国境に壁を造り不法移民の流入を防ぐことを提案していた、とのこと。生活困難で反移民、アメリカ・ファーストの賛同者は当時から多く、MAGAと呼べる層はすでにあった、というのだ。 移民流入に関しては、24年9月にトランプがテレビの候補者討論会で「ハイチ移民が犬や猫を食べている」「ベネズエラのギャングがアパートを不法占拠している」など放言し、大問題に発展した。しかし、國枝さんは実際にオハイオ州やコロラド州の現地を訪れ、いずれも根拠のないデマや誇張された情報だったことを確認した。 ―― ハイチ人のペット食もベネズエラ・ギャングの不法占拠も、SNSへの投稿や画像がバズって拡散したことが原因でしたよね? 「アメリカでは若い世代を中心にして、情報の取得源がSNSに偏っています。ところがSNS情報は玉石混淆、事実もありますが誤情報や扇動のための偽情報も満載です。そしてプラットフォーム企業によって自分の個人情報を吸い上げられ、それを分析され、与えられた自分好みの情報に取り囲まれて暮らしています」 アメリカ人が裏付けのある事実を得にくくなっているのは、レガシー(伝統的)メディアの衰退のせいもある。地方では公共放送局や新聞社の閉鎖が相次いでいる。 ―― 現在、Xやメタなど、プラットフォーム企業はプロのファクトチェック機関によるファクトチェックを止めると決めました。EU(欧州連合)には、ヘイトスピーチや差別的内容を違法コンテンツとして規制するデジタルサービス法があるのに、なぜアメリカでは同じ規制ができないのでしょうか? 「表現の自由の考え方の違いだと思います。ヨーロッパではナチスを誉める行為は今でも違法ですが、アメリカでは白人至上主義のKKKに参加するのもナチスの旗を掲げるのも自由です。一つには、ベトナム反戦運動などを経て、市民が政府に物申す自由を重視する伝統があったこと。もう一つはトランプとIT企業が、利益拡大のために規制はない方がいいと判断したことです」 質の悪いコンテンツがファクトチェックされないままSNSでニュースとして消費される状況は、アメリカだけではなく日本でも続いている。このままでいいのだろうか。 「日本でもヨーロッパ型の規制法を整備した方がいいに決まっています」 ―― でも、そうした動きはまだない? 「高市さんはそのあたり、まったく理解していないと思います。残念ながら」

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