再審法改正めぐる緊迫攻防 激動の2月から早春の陣へ 鴨志田祐美[弁護士]

2月2日、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下、「部会」)において、昨年3月の法制審総会で法務大臣が諮問した再審法の見直し(諮問第129号)に対する答申案が採択された。昨年4月の第1回会議から9カ月あまりの間に18回の会議を開催するというタイトなスケジュールだった。特に前号のコラムで報告した第16回会議(1月20日)からわずか8日後に第17回、さらにその5日後に第18回会議を開催して採決に至るという「急ごしらえ」だった。議決権をもつ13人の委員のうち、賛成は10名、反対が3名。反対票を投じたのは全員が日弁連推薦の弁護士委員だったが、この中には犯罪被害者支援の立場から推薦された山本剛弁護士も含まれている。 この間、私たち日弁連委員・幹事は、法務省事務当局の提示する試案に対し、何度も対案や意見書を提出し、見直しを求めた(詳細は法務省のHPにある、「法制審議会刑事法(再審関係)部会」の各回のサイトを参照)。しかし私たちの意見は、法改正の内容にあたる「要綱(骨子)案」には、わずかな点を除きほとんど反映されなかった。法務省事務当局は、部会での議論を尽くすことより、2月12日の法制審総会における答申案の承認を間に合わせることを優先したとしか思えない。 本コラムでは、これまでにも部会での議論がいかに偏頗(へんぱ)かつ拙速であるかを指摘してきたが、そのような審議によって生み出された答申案は、以下のように「再審法改悪」とも言える内容だった。 (1)調査手続(スクリーニング)の導入 「再審の請求に理由がないことが明らかであると認められるとき」など一定の場合には、裁判所は、再審の請求を速やかに棄却しなければならないとする制度(「調査手続」)が創設された。 調査手続の結果、棄却または再審開始を決定すべき場合に当たらないものについては「審判開始決定」がされ、審判開始決定をした後でなければ、裁判所は証拠の提出命令(証拠開示)や事実の取調べを行うことができないとされている。 これにより、冤罪の可能性のある事件であっても、証拠開示や証人尋問などがされないまま、迅速に棄却されてしまう事件が増加するおそれがある。 (2)証拠の提出命令 裁判所は、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」について、必要性及び相当性を考慮して、相当と認めるときは、検察官に対し、証拠の提出を命じなければならないとされた。 裁判所が検察官に対して証拠の提出を命じることを義務付けた点は評価できるが、あくまで「裁判所への提出」であり、再審請求人への直接開示は認めていないため、再審請求人は裁判所に提出された証拠を見ることができない(刑事訴訟法上、弁護人は閲覧、謄写ができるが、弁護人を選任していない再審請求人には証拠の閲覧権がない)。 また、提出を命じることができるのは、請求理由との関連性などの必要性があり、かつ相当性が認められる証拠に限定される。そもそも再審請求人・弁護人は捜査機関にどのような証拠が保管されているかを知る術がないため、関連性や必要性を的確に主張すること自体が困難である。 さらに、先の通常国会に提出され、1月の衆議院の解散により廃案となった議員立法案には、関連性などの範囲の制限のない、裁判所の裁量による証拠開示命令の権限を認めていたが、答申案では裁判所の自由な裁量による証拠開示命令を認めていない。 このような答申案では、例えば袴田事件の「5点の衣類のカラー写真、ネガ」や、福井事件の「テレビ番組の放映日を示す捜査報告書」など、再審開始、再審無罪に繋がった証拠が開示されない可能性を払しょくできない。 (3)証拠の目的外使用禁止 再審請求人、弁護人は謄写した証拠の複製(コピー)等を再審請求や再審公判の目的以外で第三者に提示、交付又は提供してはならないとし、これに違反したときは罰則を科すものとされた。 被害者の名誉・プライバシーに配慮した規制であるが、そうであれば被害者の名誉・プライバシーに関する証拠のみを対象とすれば足りるはずである。一律の目的外使用禁止は過度の規制であり、再審事件の支援活動や世論の醸成に支障となるだけでなく、報道の自由や国民の知る権利を制約するものでもある。日本新聞協会も反対の声明を発出している。 (4)再審開始決定に対する検察官抗告 答申案で最も重大な問題は、再審開始決定に対する検察官の不服申立て(検察官抗告)について、これを禁止、制限するような規律を一切設けなかったことである。検察官はこれまでどおり、再審開始決定に対し、何らの制限もなく不服申立てができることとなった。 (5)附帯事項 今回の答申案にはこれまでの答申と異なる顕著な特徴がある。それは改正案にあたる「要綱(骨子)案」の前に「第3 附帯事項」として、合計12もの事項が挙げられていることである。そこには「証拠の提出命令の運用にあたっては、関連性・必要性が認められる証拠の範囲が不当に狭くならないよう、その判断が適切に行われることを期待する」「審判開始決定(スクリーニング)に係る運用にあたっては、『再審の請求の理由がないことが明らかであると認めるとき』などの要件を不当に広く解釈して安易に請求を棄却することのないよう、適切な判断がなされることを期待する」「再審開始決定に対する不服申立てについては、検察官において、もとより結論ありきではなく、慎重かつ十分な検討を確実に行った上で適切な対応がなされることが望まれる」といった、部会の議論において日弁連委員・幹事が主張した意見に配慮したような内容が盛り込まれている。別の見方をすれば、「要綱(骨子)案」では不十分だということを法務省事務当局が自認している証左と言ってもよいだろう。 しかし、その表現は「個別の事案に応じて」「適切に行われることを期待する」「望まれる」などというもので、法的拘束力などはまったくない。そもそも、現状の運用に問題があるから法整備が必要である、という文脈で始まった再審法の見直しが、「附帯事項」という運用に丸投げされるのでは、諮問の趣旨に答えたことにならない。また、部会の会議において、裁判官や検察官の委員・幹事から「附帯事項のとおり運用する」と確約する発言がなかったことからも、今後、この附帯事項に沿った運用がなされるかは心もとない。むしろ「附帯事項で配慮されている」というポーズが「要綱(骨子)案」の問題性を薄めるかのように誤解させるおそれすらある。

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