治安の良さを誇ってきた日本の社会に変調の兆しが表れている。警察に任せるだけでなく、市民一人一人と地域社会で危機感を共有することが求められる。 警察庁のアンケートに「ここ10年で日本の治安が悪くなったと思う」と答える人は年々増え、2025年は8割近くに達した。 この体感治安の悪化は統計でも裏付けられた。警察庁によると、25年の刑法犯認知件数は前年比4・9%増の約77万4千件に上り、4年連続で増えている。 認知件数は02年をピークに減少していたが、21年を底に反転した。当時は新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和され、社会活動が戻った影響とみられていた。25年はコロナ禍前の19年を上回り、治安の悪化傾向は明らかだ。 窃盗や性犯罪が増えているほか、とりわけ深刻で対策を急務とするのは、匿名・流動型犯罪グループ(匿流)が関与する詐欺だ。 電話で親族らに成り済ます特殊詐欺、交流サイト(SNS)を介した投資詐欺、恋愛感情に乗じたロマンス詐欺の被害総額は25年に3200億円を上回った。鹿児島市の予算規模に匹敵する。前年より1千億円以上増え、過去最悪を大幅に更新した。 手口は変化している。特殊詐欺は警察官をかたる事案が7割を占めるようになった。「あなたの口座が犯罪に使われている。潔白の証明には金銭が必要」などと迫り、インターネットバンキングや暗号資産での送金を誘導する。 金融機関の窓口やコンビニのATMのように、店員らの声かけによる従来の水際対策が通用しにくくなっている。高齢者だけでなく、幅広い年代が狙われている。 被害を避ける第一歩は市民の心構えにある。落ち着いて考え、家族や知人に相談しよう。警察がオンラインで逮捕状を見せたり事情聴取をしたりすることはあり得ない。 家庭や学校、地域で情報を共有し、防犯の基本を徹底したい。福岡県警が啓発動画を公開しており、参考になる。 SNSやオンラインゲームを通じて詐欺行為に加わる若者もいる。アルバイト感覚の軽率な行為は許されない。 警察には奮起を求めたい。匿流の壊滅に向けた取り締まりの強化が焦点となる。摘発は増えているものの実行役に偏り、指示役ら中心人物はごく一部にとどまる。 警察は昨年から「従来の延長線にない対策」として架空の身分証で潜入する捜査を始めた。警察で準備した偽口座を使わせて資金の流れを追う手法も導入する。生成人工知能(AI)など最新技術による手口への対応は課題だ。 匿流は海外の犯罪組織と結びつき、監視の緩い東南アジアなどに拠点を置く。被害は他国に及び、国際問題となってきた。各国当局と協力し、犯罪を封じ込める態勢の構築が求められる。