「シンプル・アクシデント」監督ジャファル・パナヒが語る、揺れ動くイラン社会の現実

第78回カンヌ国際映画祭にて最高賞となるパルムドールを受賞した映画「シンプル・アクシデント/偶然」。このたび、本作の監督・脚本を担当したジャファル・パナヒのインタビューコメントが到着した。 「シンプル・アクシデント/偶然」は、かつて不当に刑務所に投獄された主人公ワヒドが、偶然の事故によって自分の人生を奪った残忍な看守と再会する復讐劇。ワヒドは自分の人生を台無しにした“義足のエグバル”と思しき男を拘束し、生き埋めにしようとする。しかし、男は「人違いだ!」と必死に抵抗。実は、投獄中に目隠しをされていたワヒドはエグバルの顔を見たことがない。ワヒドは真相を確かめるため、昔の仲間たちのもとを訪ね、真の復讐に奔走するのだった。 本作にはワヒドのほか、イラン政府によって理不尽に収監された多くの人物が登場する。「特定のモデルはいるのか?」という質問に対し、パナヒは「登場人物は架空だが、彼らの物語は実在の囚人たちの体験にもとづいている」と説明。「復讐心に駆られる者もいれば、時間を掛けて未来を模索する者もいる。政治に関心を持つ者もいれば、無関心のまま偶然捕まる者もいる。ワヒドはその最後のタイプだ」と明かす。 劇中の登場人物たちは多様な反体制グループを象徴しており、同じ立場にありながらも思想の違いから衝突を起こすことも。パナヒは「ワヒドはただ賃金を要求しただけの労働者だった。しかし政権は人々を区別しない」と述べ、本作が現実社会と地続きであることを強調した。 またパナヒは、2022年にヒジャブの着用方法をめぐり逮捕・拘束され、死亡したマフサ・アミニをきっかけに広がった「女性、命、自由」をスローガンとする抗議運動にも言及。政府への拒絶が社会に広がった一方で、「その先に置き換わる明確な政治モデルはまだ定まっていない」と現状を語る。撮影当時のイランについては「多くの女性がヒジャブを着けず公共の場に出るなど、市民的不服従が可視化されている。数年前には考えられなかったことだ。映画で女優たちが髪を覆わず路上で撮影した場面は、今の現実を反映している。変革をもたらしたのはイランの女性たちだ」と述懐した。 「シンプル・アクシデント/偶然」は、5月8日より全国でロードショー。キャストにはワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ、エブラヒム・アジジ、ハディス・パクバテン、マジッド・パナヒ、モハマッド・アリ・エリヤスメールが名を連ねた。YouTubeでは本編の一部映像が公開中だ。 ©LesFilmsPelleas

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