「シンプル・アクシデント」監督ジャファル・パナヒ、2度の収監経験が及ぼした影響明かす

イランの映画監督ジャファル・パナヒの最新作「シンプル・アクシデント/偶然」より本編映像の一部が解禁され、あわせてパナヒのインタビューコメントが公開された。 本作は、不当に投獄された人々が復讐を試みる姿をスリリングかつユーモラスに描く復讐劇。主人公ワヒドは、偶然の事故をきっかけに、自らの人生を奪った残忍な看守“義足のエグバル”と思しき男と再会する。男を拘束し生き埋めにしようとするワヒドだが、相手は「人違いだ」と必死に抵抗。実は投獄中に目隠しされていたため顔を見たことがないワヒドは、昔の仲間たちのもとを訪ね、真の復讐に奔走する。 YouTubeで解禁された本編映像には、根がお人よしなワヒドが男に対して確信を持てず、「これはやつだろうか」と迷いを隠せなくなった姿が収められた。深刻な状況でありながらもどこか滑稽さが漂うシーンとなっている。 2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”として20年間の映画制作と出国を禁じられたパナヒ。2023年に渡航禁止が解かれ、最初に着手した本作で第78回カンヌ国際映画祭に正式参加し、イラン映画として28年ぶりに最高賞のパルムドールを受賞した。さらに第98回アカデミー賞で国際長編映画賞と脚本賞にノミネートされた一方で、2025年12月、アメリカでのプロモーション中だったパナヒは“反体制プロパガンダ”を理由に再び有罪判決を受け、懲役1年に加えて2年間の渡航禁止など厳しい措置が科された。 「フィルムメーカーとして、新たな局面に入った」と話すパナヒ。「最初の映画『白い風船』から『オフサイド・ガールズ』までは監督としての課題に集中してきたが、2010年に初めて逮捕されてからは自分自身の状況に焦点が移った。それまで外に向いていた私のカメラが、内向きになった」と振り返る。そのうえで「『これは映画ではない』から『熊は、いない』までは自分が経験していることにカメラを向けていた。しかし禁止令が解かれた今、また外側に目を向ける必要性を感じている。ただし以前とは異なる視点だ」と語っている。 また、2度の収監経験による仕事の変化について「それぞれ異なる形で影響がありました」と明かす。最初の収監を「独房で15日間過ごし、その後は2、3人と雑居房へ移された。多くの人と接する機会はほとんどなかった」と回想。2度目の収監では「さまざまな人生を歩んできた囚人たちと一緒だった」そうで、7カ月の拘束期間中、彼らと長時間話し、互いに情報を交換するなどの交流があったという。 さらに2度目の拘束では、ハンガーストライキの末に釈放された直後、待っていたのは解放感だけではなかったとも言及。「釈放後は茫然としていた。外の世界でどう生きていけばいいのかわからなかった。自由になった安堵と、残してきた囚人たちへの気がかりの間で引き裂かれるようだった。その葛藤は今も抜け出せずにいる」と複雑な心境を吐露した。 「シンプル・アクシデント/偶然」は5月8日より東京・新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国でロードショー。出演にはワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ、エブラヒム・アジジ、ハディス・パクバテン、マジッド・パナヒ、モハマッド・アリ・エリヤスメールらが名を連ねた。 ©LesFilmsPelleas

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