ネオコンを批判していたトランプ大統領、「新ネオコン」に取りつかれた

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、どうやって米国のドナルド・トランプ大統領をイランとの戦争に引きずり込んだのだろうか。ネタニヤフ首相のトランプ説得は一朝一夕に成し遂げられたものではない。米国の右派ユダヤ人やイスラエル企業を通じて、2024年の米国の大統領選以前から「トランプの政権返り咲き」作業に関与し、綿密に取り組んできた結果だ。要となったは、米国内の右派ユダヤ人の政治的影響力を用い、第2次トランプ政権の外交・安全保障チームの随所に「新ネオコン」勢力を配する作戦だ。彼らは2024年の大統領選を前に、保守シンクタンク「ヘリテージ財団」がトランプ返り咲き政策の設計図として作成した「プロジェクト2025」の執筆陣に加わった。 昨年1月のトランプのホワイトハウス復帰と同時に、ワシントンのバンデンバーグ・コアリション(Vandenberg Coalition)というシンクタンクが、待ってましたとばかりに米国の新たな外交政策を提示する報告書を発表した。タイトルは「世紀の取引:中東解決」。この文書はトランプ第2期を標的とした「ネオコン宣言」で、米国はイスラエルにより多くの武器を提供するとともに、イランに対して従来とは根本的に異なる政策を採用すべきだと主張。選挙運動で「米国は海外に軍事介入しない」という孤立主義を掲げていたトランプ大統領に影響を与えようと考案された、強硬なロードマップだ。報告書は「イランの核兵器開発阻止」を最優先課題として掲げており、中東で中国が影響力を拡大してきたことに懸念を示しつつ、中国をワシントンの「最重要敵対国」と規定するよう求めた。トランプ第2期外交の最優先課題はイランと中国だと強調したのだ。 バンデンバーグ連合の報告書はこの1年間、ワシントンの権力中枢で繰り返し検討されてきた。スティーブン・ミラー大統領次席補佐官、マルコ・ルビオ国務長官、マイク・ウォルツ国連大使、アレックス・ウォン元国家安全保障担当大統領副補佐官、エルブリッジ・コルビー国防次官らがこれを実行する具体的な戦略を策定し、大統領に伝えていた。報告書の戦略的焦点は結局のところ、中国けん制にある。まず、ベネズエラ政権を米国の影響下に置けば、ベネズエラを拠点に育まれてきた中国の西半球における影響力に打撃が与えられる。米国は、外交・軍事資源を他地域に集中させることで、中東などの重要地域における中国の影響力拡大をより効果的にけん制できるとみている。中国のグローバルな影響力を段階的に弱めるという構想だ。トランプのイラン戦争は、北京訪問を前にした地ならしだとする分析もある。力を中心に据えるトランプ式外交を「破壊してから取引(Destroy and deal)」という枠組みで体系化し、過去よりも攻撃的で予測不可能なモデルとして提示したのだ。 2021年に設立されたバンデンバーグ連合は、介入主義的な外交政策と国防費の増額を擁護する。昨年1年間、この団体はベネズエラとイランに関する報告書を次々に発表し、ニコラス・マドゥロ大統領の逮捕とイランに対する攻撃を主張してきた。バンデンバーグ連合の創設者で、議長を務めるのは、著名なネオコンの実力者エリオット・エイブラムスだ。エイブラムスは中東における親米政権の樹立こそテロ根絶の根本対策であると信じる強硬な介入主義者であり、2003年の米国によるイラク侵攻を最も強く推進したネオコンの中心人物でもある。彼はイラン-コントラ・スキャンダルに関与し、有罪判決を言い渡されたという前歴も持つ。 オバマ政権の8年間、エイブラムスは外交問題評議会(CFR)の理事として活動しつつ、オバマの外交ドクトリン「裏から導く政策(Leading from Behind Policy)」が米国の影響力を弱めていると主張した。彼はオバマによるキューバやイランとの国交正常化の推進を「敵に手を差し伸べる行為」だとして強く批判した。イラク戦争の副作用がはっきりしたにもかかわらず、彼はシリア内戦、イスラエル・パレスチナ問題について意見を表明し続け、散り散りになっていたネオコンの戦略家たちを再組織した。 2019年、第1次トランプ政権でエイブラムスはベネズエラ・イラン担当特使に任命され、公職に復帰した。彼とほぼ同レベルのネオコン戦略家、ジョン・ボルトンもこの時、安全保障担当の大統領補佐官に任命された。エイブラムスはイスラエルのネタニヤフ首相と非常に親しい関係にある。筆者は2007年のAPEC年次総会の会場でエイブラムスに会ったことがある。エイブラムスはこの時、筆者が韓国出身であることを知り、「中国、イラン、北朝鮮がひとつにまとまっているから、米国、イスラエル、韓国は安全保障戦略において緊密に協力すべきだ」と主張した。 2024年の大統領選でトランプが「もう戦争はない」と孤立主義を主張したことを受け、エイブラムスはバンデンバーグ連合にネオコン系の戦略家を集め、彼らをヘリテージ財団の「プロジェクト2025」企画チームに合流させた。第2次トランプ政権では公式な肩書きは持っていないが、エイブラムスは中東政策の理論的指針を提供する裏の協力者かつ分析家として影響力を行使している。何よりも、彼を中心とするトランプ政権の随所に配された新ネオコンの影響力は絶大だ。トランプ大統領の最側近であるミラー次席補佐官、ウォルツ国連大使、ルビオ国務長官、そして上院でトランプを最も堅く支持するテッド・クルーズ(テキサス州)、リンジー・グラハム(サウスカロライナ州)、トム・コットン(アーカンソー州)の各上院議員は、エイブラムスの戦略に同調する新ネオコンたちだ。その他にもジェイミソン・グリア通商代表、国土安全保障省の次官に指名されたブライアン・キャバノー、アル・マシューズ国防省法務顧問、モーガン・オルタガス中東和平特使、マイク・ハッカビー駐イスラエル大使がいる。ハッカビーの首席顧問を務めるデービッド・ミルスタインは、MAGA運動で中心的役割を担い、ホワイトハウスに影響力を行使する強力なイスラエル支持者だが、トランプから揺るぎない信頼を受けるFOXニュースの司会者で保守論客のマーク・レビンの義理の息子でもある。そして韓国でも広く知られるコルビー次官は、エイブラムスの義妹の息子である。 米国の外交政策で強大な影響力を行使していたネオコンは、イラク戦争の失敗とともに、ジョン・ボルトンを最後にワシントンから姿を消したようにみえた。しかし「イスラエル中心の中東政策」という古い戦略を掲げ、いつの間にかトランプ政権の中枢深くに入り込んでいる。彼ら新ネオコンは、トランプの「米国第一主義」路線と自らの強硬な介入主義を結び付け、新たなタカ派政策を生み出した。彼らは、かつてのネオコンが叫んだ「民主主義の拡大」はもはや主張しない。代わって「圧倒的な力による屈服と取引」に注力することで、トランプ第2期の外交・安保政策を主導している。彼らは「価値観より実利」を掲げ、敵対国(結局は中国)の実質的な無力化を目標に設定し、トランプの関心を引きつけた。 彼ら新ネオコンと手を組んだネタニヤフのもうひとつの戦略は、トランプ大統領の家族が経営するビジネスにユダヤ系資本を大量に合流させるというものだ。主に防衛産業、AI、宇宙航空、バイオ分野の巨大企業だ。トランプがイランを攻撃して戦争を展開している間、彼の2人の息子は軍需産業に投資し、巨大な利益を得ている。トランプ大統領の次男のエリック・トランプは、米国防総省の契約業者であるイスラエルのドローン企業「Xtend」に投資しており、今回の戦争でドローン戦力が重要になったことで多額の利益を得た。 長男のドナルド・トランプ・ジュニアは、ドローン部品スタートアップ「Unusual Machines(アンユージュアル・マシーンズ)」の株を保有しており、同社の取締役でもある。同社は米国防総省からドローン部品の生産のために6億2000万ドル規模の融資を確保しており、これは国防総省戦略資本室の歴史上、最大規模の融資だ。トランプ・ジュニアは「愛国的資本主義」を主張しており、国防技術スタートアップに投資するベンチャーキャピタル「1789キャピタル」のパートナーでもある。「1789キャピタル」は、シリコンバレーのベンチャー投資家でトランプを支持する億万長者のネットワーク「ロックブリッジ・ネットワーク」のメンバーが投資した投資運用会社だ。トランプ再選直後にトランプ・ジュニアが加入したことで、1789キャピタルは爆発的な成長を遂げている。同社の主な投資分野は国防、兵器産業で、アンドゥリル、ハドリアン、スペースX、そして国防総省の契約業者でレアアース磁石を製造するバルカン・エレメンツなどの企業が投資ポートフォリオに含まれている。特にトランプ・ジュニアは、物議を醸す市場予測会社「ポリマーケット」の顧問として活動しており、主な外交・安保政策を事前に把握して巨額の利益を得ているとの疑いが持たれている。 トランプ第2期のワシントンは、遠距離戦争を通じて巨額の富を蓄える巨大なロビイストネットワークと、米国の覇権のために戦争も辞さない新ネオコンに取りつかれている。ネタニヤフの影響力も、このような構造の上で作用する。彼らは中国、ロシア、イラン、北朝鮮をまとめて「クリンク(CRINK)」と呼び、新たな「悪の枢軸」と規定している。韓国では、5月に予定されているトランプ大統領の訪中を機に、停滞している朝米関係に隙間が生じるかもしれないと期待されているが、筆者は不安の方が先に立つ。炎に包まれたペルシャ湾一帯がなぜか他人事のように感じられないと言ったら、懸念のしすぎだろうか。 キム・ドンソク|米州韓人有権者連帯(KAGC)代表 (お問い合わせ [email protected] )

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