戦争はもはや“ゲーム” AIが標的を選び、部隊に指令を送る「未来の戦場」のリアル

チャットGPTのように会話を交わしながら、戦場の部隊に指令を送る。そんなAIシステムが、すでに戦争の現場で使われ始めている。米データ分析企業パランティアは、衛星画像や軍事情報など膨大なデータをAIで解析し、敵の標的や攻撃手段を提示する技術を提供してきた。AIは戦争をどう変え、監視社会への懸念をどう広げているのか。その「新たな戦場」の舞台裏を2026年6月発売の『ルポ シリコンバレー』(五十嵐大介著/朝日新書)から、一部を抜粋・編集してお届けする。 * * * ■戦争の現場に入り込むAI企業 チャットGPTの登場と前後して起きた、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとガザなどの中東の紛争。先端のAI技術は、そうした戦争の現場も変えていく。 2024年1月、イスラエルの商都テルアビブ。地中海を望む高層ビルにあるオフィスに、米データ分析企業パランティア・テクノロジーズのアレックス・カープ最高経営責任者(CEO)の姿があった。同社が初めてイスラエルで開いた取締役会のためだ。 カープ氏と同社共同創業者のピーター・ティール氏らは、イスラエルのヘルツォグ大統領や軍幹部らと相次いで会談。同国軍との「戦略的提携」で合意した。「同国の戦争の取り組みを支援するための技術を提供する」というが、詳細は明らかにしていない。 パランティア幹部は私の取材に、イスラエル軍にシステムを提供してきたことを認めた。23年10月のイスラム組織ハマスとの戦闘開始後、イスラエル軍からの引き合いが急増しているという。 2003年創業のパランティアは、衛星画像などのデータをAIで解析するシステムを、米国防総省や米中央情報局(CIA)のほか同盟国の軍や情報機関に提供する。テルアビブのオフィスは15年に開設。22年のロシアのウクライナ侵攻後、ウクライナ軍も同社のシステムを戦場で活用している。 ■まるでゲームのように、標的が選ばれていく そのシステムはどんなものなのか。スタンフォード大学からほど近いカリフォルニア州パロアルトのオフィスを訪ねると、担当者がデモを見せてくれた。 画面に映し出されたウクライナ東部の地図には、多くの青い四角が見える。敵の戦車などが想定される位置だ。官民数万の衛星からの画像や軍の機密情報、地対空ミサイルの熱に反応する赤外線警戒システムなど、膨大なデータをAIが解析。人間が注目すべき敵の標的を、自軍の司令官に知らせる。 「たとえば、この桟橋を爆撃したいとしよう」 担当者が赤い三角で示された港の桟橋を選ぶと、AIが攻撃のために自軍が使えるF-15などの戦闘機のリストを提案してきた。 「武器」 「残りの燃料」 「標的までの時間」 「距離」 複数の項目から、担当者が重視したい要素を選ぶと、希望に最も合う順番で戦闘機のアイコンが並んだ。攻撃を指示すると、「実行中」という列に標的のアイコンが移動する。 まるでゲームをしているような感覚だ。 「東アジアなどで想定される未来の戦争は、いままでと全く違うものになる」 オバマ政権時のホワイトハウスで対テロ対策を担当した、パランティア幹部のシャノン・クラーク氏はそう話す。国防総省が日々受け取るデータは指数関数的に増えており、生身の人間がさばける量を超えているという。 「戦闘領域がより大規模になり、瞬時に多くの意思決定が求められる。人間だけで対応できないことを、AIが補完してくれる」 パランティアは、チャットGPTの土台となるような大規模言語モデル(LLM)は開発していない。オープンAIや米グーグルなど他社が開発する基盤モデルと、顧客である軍や企業が持つデータをつなぎ、分析・活用するツールを提供する。23年に発表した生成AIを使った「AIP」と呼ばれる製品では、チャットGPTで会話を交わすように戦場の部隊に指令を送ることができる。 「重要なのは、AIモデルを信頼できるかどうかだ」。パランティアの製品設計のトップ、アクシェイ・クリシュナスワミー氏はそう話した。 同氏は、AIは間違った回答をする「ハルシネーション(幻覚)」を起こしうると認めたうえで、「データリニエージ」と呼ばれる家系図のようなチャートをみせてくれた。 システム上で、軍の部隊、目標物などのデータがどう使われ、AIがどんなデータにアクセスできるかを管理できる。軍の誰が、いつ、どんなデータにアクセスして、AIがどんな回答をし、その結果人間がどんな意思決定をしたのかも記録され、検証できるという。このシステムは、製造業のサプライチェーン管理などにも使われており、SOMPOホールディングスがパランティアと合弁会社をつくるなど、日本の民間企業にも顧客が多い。 AIの信頼度が増せば、より多くの作業を任せられるのか。 「もちろんだ」。クリシュナスワミー氏はそう即答した。「AIがより信頼できるようになれば、より多くの作業を自動化できる」 パランティアの幹部らが口々に言うのは、AIが「アシメトリック(非対称)な技術」という点だ。膨大なデータをAIを使って瞬時に分析し、敵より圧倒的に有利な状況を生み出す。米国が同盟国とAIによる支配力を築くことで、敵が戦争に踏み込むコストを引き上げるという。 ■日本にも向けられる、AI軍事ビジネスの視線 同社は日本にも照準を合わせる。 カープCEOは22年の訪日で、岸田首相(当時)と面会。24年1月のスイス・ダボス会議では、河野太郎デジタル相(同)とも写真に収まった。 「強い軍はより強く、強いソフト企業はより強く、弱い立場にある人々はさらに弱くなる」。カープ氏は、ダボスでの米メディア「アクシオス」との対談でそう強調した。 26年3月には、共同創業者のピーター・ティール氏が来日し、高市首相と面会した。 一方で、パランティアをめぐっては、プライバシー侵害や監視社会につながるとの懸念も根強い。 米ワイヤード誌は25年4月、パランティアがメキシコ国境の取り締まりを担う移民税関捜査局(ICE)に対し、不法移民を「ほぼリアルタイム」で追跡できるツールを提供する契約を結んだと報じた。パランティアはICEと長年契約を結んでおり、25年6月には、パランティアのオフィス前で抗議活動をしていた市民らが逮捕されている。

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