作品を発表する度に世の中に問題を投げかけてきた、「ミッシング」「空白」の𠮷田恵輔監督。新作「四月の余白」には、他人の痛みも常識も理解できない少年たちが登場する。彼らの姿は、かつて監督自身が出会った少年たちを基にしている。 彼らに本気でぶつかる主人公・西健吾を演じるのは、Netflixドラマ「サンクチュアリ 聖域」の一ノ瀬ワタル。教師・草野冬子役で新境地を見せる夏帆、問題児・澤海斗に抜擢された新星・上阪隼人のキャスト3人と、𠮷田監督という4者への取材が叶った。 元半グレで元受刑者の西健吾(一ノ瀬ワタル)が運営する更生施設「みらいの里」。中学教師の草野冬子(夏帆)は、他者の痛みを理解できず暴力を繰り返す生徒・澤海斗(上阪隼人)を施設へ預ける決断をする。次第に変化の兆しを見せ始めた海斗だったが、施設を脱走し再び事件を起こして逮捕されてしまう。さらに西の過去も明るみに出て……。 ●一ノ瀬ワタルは、「今の日本を代表する“泣いた赤鬼”」 ――監督自身が少年時代に出会ってきた人や経験、環境がベースになっていると伺いました。ずっと温めていた企画だったのでしょうか。 𠮷田監督:俺はいつも自分の経験を切り売りして脚本を書いているんです。「BLUE ブルー」も自分がボクシングをやっていたからだし。恋愛ものとかも全部出し切っちゃった。今後は小学生とかになっていくかも(笑)。 ――今回もご自身の中から自然に生まれていったものだと。 𠮷田監督:そうですね。「空白」(2021)を作ったときに、ちょっとだけ学校のシーンとマスコミのシーンが出てきたんだけど、あのときは表面を掬ったような表現に留めざるを得ませんでした。それでもうちょっとそこを詰めたものを作ろうと思って「ミッシング」(2024)では報道に対しての問題提起をやりました。それで今回は教育の方を取り上げました。 ――更生施設「みらいの里」を運営する主人公・西を、一ノ瀬ワタルさんが演じました。 𠮷田監督:“泣いた赤鬼”みたいなイメージと言えばいいのかな。優しいんだけど、鬼みたいにも見える。そういう哀愁を持っている。一ノ瀬さんは、今の日本を代表する“泣いた赤鬼”だなと思って。 一ノ瀬:そうですかね(照)。 𠮷田監督:愛嬌と切なさと。本当に過去を背負っていそうな雰囲気にも見える。あとちょっとだけバカっぽいと感じさせるところがあって、なんかまたやらかしそうだなという、危うさもあっていいなと。 一ノ瀬:あはは(笑)。 ――一ノ瀬さんは今回映画初主演です。オファーを受けていかがでしたか。 一ノ瀬:まず題材がすごいなと思いました。自分は昔、キックボクシングをやってて、ジムの内弟子に入ってたんです。そこには少年空手もあって、非行少年たちが来るんです。話を聞いていたと思ったら、いきなりお母さんの顔面をバーンって殴ったりする。先生はその子たちを更生していこうとする。実際、空手を続ける子たちはみんな更生というか、まともになっていくんですよ。空手というのは暴力じゃないけど、痛みを知るスポーツではあるから、「これって、なんなんだろう。なんでこんなに更生していくんだろう」という疑問がずっとあったんです。だからこのオファーが来た時は、解決じゃないですけど、知りたいと思いました。 ――監督から役について何かオーダーは。 一ノ瀬:普段どの役をやる時も、自分はその作品の「起爆剤になろう」みたいなことを心がけているんです。「自分が起爆剤になって、自分が歯車を動かして、全体をすごい作品にしてやるぞ」みたいな。それが今回は、「みんなの芝居を受け止める西でいてください」と。 𠮷田監督:最近の俺の映画って、大体、主人公が「ギー!」って暴れてるんです。「よしよしよし」と受け止める側の主人公はなかなかなかった。西の場合は、そちらの、受けの芝居が大事になってくる。 ●上阪も夏帆も、今回の役は「すごく難しかった」 ――他者の痛みを理解できない少年という難しい役は、上阪さんに託されました。 𠮷田監督:かなりの人数にオーディションしたんですが、上阪くんが来た瞬間、「あ、この子だ」と思いました。だけどほかのスタッフたちはそうは感じてないだろうなと思って、「今の子が海斗っぽい」と伝える時に、どんな反応するかなと思ってワクワクしてました。自分の中では海斗って、“お金のないスネ夫”みたいなイメージだったんです。上阪くんは、芝居はナチュラルなんだけど、独特な空気感を持っていて、キャラクターにすごく合っていると思いました。そんなに世に出てないから、“本物”に見えるのもいいと思いましたね。 ――上阪さんは役作りでどんなことを意識しましたか。 上阪:これまでもちょっとやんちゃな役とか不良少年の役はあったんですけど、今回みたいな実際喧嘩とかは弱いくせに強がって、人が引くくらいの、ここまで何か違うレベルの役を演じるのは難しすぎて。「お金のないスネ夫」というのは衣装合わせの時に教えていただきました。何を考えてるのかわからないように、いつも口を半開きで歯の裏を舌でレロレロしててと言われて。 ――しぐさから入ることで、役作りの内面にも影響していく部分はありましたか? 上阪:あったと思います。 ――上阪さんご自身は少林寺拳法をずっとされているとか。礼儀もきっちりで、海斗とはまったく違うタイプなんですよね。 上阪:礼儀は、はい。 𠮷田監督:上阪くんは、めちゃくちゃ怖い、コミュニケーションができない少年の役をやってるけど、現場で誰よりもコミュニケーション力が高いんです。ずっと誰かと喋ってたよね。 上阪:はい。人見知りとかあんまりしないんです。 ――夏帆さんは。 𠮷田監督:夏帆さんはもうずっと一緒に仕事したかった方。憧れの方なので、もうとりあえずどんな手を使ってでも夏帆さんと一回仕事したいと(笑)。 夏帆:えー(笑)。 𠮷田監督:すごく一生懸命な人間がすごく似合うんだけど、どこか不幸な感じがする。全部がうまくいって元気にやってるやつよりも、なんかちょっと失敗してなんか落ち込んだりする姿が似合うなと思いました。 ――夏帆さんは冬子という役をどう捉えましたか。 夏帆:すごく一生懸命ですよね。強い信念を持って子供と向き合っていて。それでもこう何度も心が折れそうになる。そのギリギリにいる感じがすごく魅力的だなと感じました。ただ、説明的なセリフが多くて、口語体じゃないことも。でもそこに彼女の抱えている痛みとか葛藤が乗っかって見える。 𠮷田監督:みんながナチュラルに芝居するから、そこに合わせなきゃいけないんだけど、一人だけ結構説明セリフがあるから。難しいことをお願いしてるんだよね。 夏帆:私、教師役も初めてで、自分が普段あまり使わない言葉を自分の言葉にしなきゃいけなくて。冬子はすごく孤独でもあるし。とにかく難しい役でした。 𠮷田監督:役として難しいという葛藤が役自身の葛藤にもなったかもね。 ●3人全員が口をそろえる、𠮷田監督の現場の早さ ――お三方が共演している火を使った場面が印象的でしたが、撮影は大変そうです。 𠮷田監督:やる前は大変だったんですけどね。ロケーションもだし、乾燥注意報が出たら撮影できないし、でも晴れてないとダメだし、風もダメだし。近所の消防車とかも手配して。全部の環境が合う必要があるから、何日間か予備も取りました。でも割とサクッと行けたんですよ。すごく短い、夕焼けの時間を狙って撮るという難しさもあったんですけど、思った以上にうまくいきました。 ――𠮷田監督の現場は早いとか。 夏帆:すごく早いです。 一ノ瀬:こんなに早い現場は初めてでした。 上阪:僕も初めてでした。あと、僕は面会のシーンが難しくて印象に残っています。おふたりとガラス越しに面会するんですけど、どういうテンション感でいればいいのかわからなくて。監督に結構聞きました。リラックスした感じでいればいいのか、それとももう……。 𠮷田監督:サイコパス。 上阪:サイコパスな感じでいくのか。 𠮷田監督:サイコパスだと映画の中で作られたキャラクターに見えちゃう。でも俺が見てきた人たちは、そういう人たちじゃない、「本当に、わかってないんだな」というリアルな気持ち悪さみたいなものを見せたいと思って。 上阪:すごく時間がかかりました。 𠮷田監督:でもすごくイメージぴったりになりました。 ――実際にお仕事をされて、お三方への印象は変わりましたか。 𠮷田監督:一ノ瀬さんは、体も大きいから、でっかく当たってくるタイプかと思ったら、すごく繊細な芝居をする方で、話をすると、一ノ瀬さん自身が結構繊細な方なんですよ。 一ノ瀬:そうなんです。でかいだけで(笑)。 ――上阪さんは。 𠮷田監督:上阪くんは、めちゃくちゃ器用。一見、何も考えてないように見えるんです。でもスクリプターさんの記録を見ても、毎回完璧に同じことをしている。芝居の力の抜き方がうまいから、適当にやってるように見えるんです。だけどちゃんと計算してやっている。これは技術というか、天性のものに近いかもしれません。 ――夏帆さんはいかがでしたか。 𠮷田監督:意外と、誰よりも動物的だったのが夏帆さんです。完全にその役になって、その気持ちになってるから、毎カットごとに違ってくる。相手の出方によって、その瞬間にチューニングもするし。一ノ瀬さんや上阪くんは技術派で、夏帆さんはその空気のままに動物的に動く。そういう人たちの組み合わせで、俺はいつも作っています。 ――両方のタイプがぶつかることで生まれる化学反応があるんですね。最後に公開を前に、観客に届いてほしい思いを教えてください。 𠮷田監督:そういうことは、あまり考えないんだよな。ありませんね。あります? 夏帆:私もあまりないです。観てくださった方がそれぞれどのように感じたかは気になります。 𠮷田監督:エゴサはめっちゃします。だけど、例えば評価が星一個だろうがべた褒めだろうが、同じ感覚でフラットに読んでます。 上阪:僕も見ますけど、同じですね。 一ノ瀬:自分はエゴサとかあんまりできないんですよね。結構、メンタルに食らって引きずるから。 ――一ノ瀬さんは、初主演作ですが、題材も受けの芝居という点もチャレンジのし甲斐があったのでは。 一ノ瀬:チャレンジのし甲斐……。そうですね。でもだから不安もあります。これを観てもらって、どう思ってもらえるのか。エゴサはできないですけど、どういう反応になるのか気になります。 𠮷田監督:繊細だからね(笑)。まあ、みなさんの好きに観てもらえればと思います。 (取材・文:望月ふみ/撮影:You Ishii)