ニコール・コルスター・ルーセスBBCムンド記者(ラ・グアイラ)、シーラ・フリン記者 ヴェネズエラ出身のアベラルド・リンコンさん(23)は、アメリカのジョージア州で6年間、生活を築いていた。自動車販売店で働き、結婚し、間もなく生まれる娘の誕生を楽しみにしていた。しかし、ドナルド・トランプ大統領による移民取り締まり強化策の一環として、アメリカ当局に拘束された。 リンコンさんの両親と妊娠中の妻は悲痛な思いで、彼がアメリカ当局に拘束されている間、あらゆる情報を待ち続けた。そして先月、リンコンさんは他の140人以上のヴェネズエラ人と共に飛行機に乗せられ、故郷へ強制送還された。 リンコンさんは6月24日にヴェネズエラに到着し、拘束されたまま、米ジョージア州アトランタにいる家族に電話をかけた。 彼を含め、強制送還された大勢は、海岸近くのホテルに収容されていた。 電話の数時間後、24日夕にヴェネズエラを2度の地震が襲った。これまでに少なくとも2200人の死亡が確認されている。さらに1万人以上が負傷し、国連の発表によると5万人が行方不明となっている。 リンコンさんは、164便で強制送還された他の大勢とともに、行方不明者の中に含まれている。 強制送還された後、地震で行方不明になった人たちの家族は、家族の逮捕、拘束、国外追放、送還、そして自然災害と立て続いた出来事に何とか対応した挙げ句、今では大切な人の消息に関する情報を必死になって探し求めている。 米移民税関執行局(ICE)などの移民取締機関を管轄する米国土安全保障省は声明を発表したが、BBCの取材に対し、この件に関する詳細は明らかにしなかった。 「この便は無事にヴェネズエラに到着し、搭乗していた不法滞在者は全員帰国した」と、国土安全保障省の報道官は6月30日、BBCに述べた。 「特定の個人がICEの拘束下から離れた後、ICEはもはやその個人に対する責任を負わない」 移民たちの強制送還については、不法入国が理由なのかそれ以外の理由があるのか、明らかになっていない。 この間、ヴェネズエラ政府は一般市民の安否確認用に電話番号を公開したが、壊滅的な大災害の後、得られる情報は限られている。 強制送還のフライトに乗せられた中には、女性19人と子供7人が含まれていたと言われている。この人たちはヴェネズエラ当局が健康診断と書類手続きを済ませた後、ラ・グアイラ市のホテル・サンチュアリオ・ラ・リャナダに収容した。ラ・グアイラ市とその周辺は広い範囲で地震の被害が特に甚大で、多くの建物が倒壊している。 リンコンさんと同じように、強制送還された大勢が地震発生直前に家族に連絡を取り、ヴェネズエラに戻ったと知らせていた。 リンコンさんの祖父ホセ・リンコンさんは、スペイン語で取材・報道するBBCムンドに対し、孫を見つけようと、首都カラカスの遺体安置所などを訪れ、少なくとも200人の遺体を見たと話した。 ホセさんは、孫や他の強制送還者たちが収容されていた、倒壊したホテルの跡地を訪れようとしたものの、ヴェネズエラ当局に立ち入りを阻止された。 当局はホセさんに、そこでは「誰も生きていない」と告げたという。 「見なくてはならないものを、見ることさえできれば……がれきを見ることさえできれば、自分は満足する。しかし、何日もたって、まだ見つからない。生きているか、死んでいるかもわからない。一体どうすればいいのか」と、ホセさんはBBCに話した。 ダルウィン・エリセル・セラーノ・ロペスさん(35)は、現地時間24日午後5時32分にいとこに電話をかけ、アメリカで4年暮らした末の帰国を伝えた。最初の地震はそれから30分ほどで発生した。 いとこのパオラ・チャコンさんは、「私たちは一晩中、車を走らせた」と話した。セラーノ・ロペスさんがヴェネズエラに戻ったと最初に電話で知らせを受けたのは、パオラさんのきょうだいだった。 親族によると、セラーノ・ロペスさんは米シカゴで最初に拘束された後、四つの収容施設を転々とさせられた後、米当局によって国外退去便に乗せられたという。 チャコンさんは6月29日、いとこが亡くなったとの見方を受け入れざるを得なかったとBBCムンドに話した。家族は1週間近く捜索を続けたが、セラーノ・ロペスさんの行方の手がかりは全く見つからなかったという。 「あれから何日もたったのに……なんの答えも得られない」とチャコンさんは言いつつ、「ダルウィンの遺体を家に連れて帰ることができるまで、私たちはここにいるつもり」だと、付け加えた。 ダニエル・アレハンドロ・ヌニェスさん(28)も同じフライトでアメリカに強制送還され、収容先から母親に電話をかけた。そして家族は今も、錯綜(さくそう)する情報に困惑している。 「病院や遺体安置所など、あらゆる場所で彼を探した」と、継父のホセ・アレハンドロ・アバチェさんはBBCムンドに話した。 アメリカへ移住した家族と長年離ればなれだった人たちは、強制送還された家族を帰国直後に失ったかもしれないという、想像を絶する苦しい事態に直面している。 セラーノ・ロペスさんの妻、ミルドリー・サラゾさんは、夫とは3年間会っていなかった。6月29日の時点でも、9歳と15歳の娘たちに、このことを何も話していなかった。 ミルドリーさんもまた、証拠を待っていた。そして、アメリカから「まだ帰りたくなかった」夫の遺体も待っていた。 「私たちは親族を埋葬したい」と彼女は言い、「身元を確認して、何があったのかを確認するため、彼を引き渡してもらいたい」のだと付け加えた。 しかし、164便で強制送還された人の中には、収容されていたホテルの倒壊を生き延びた人もいる。一度は離れた国に戻された挙げ句、がれきの中からはって出ることになった顛末(てんまつ)に呆然(ぼうぜん)としている。 リズベス・ポルティーリヨさん(58)は16人の女性と同じ2階の部屋で、ベッドに横たわっていた。建物はその時、崩壊した。 「隣にいた女性が落ちていくのが見えた。(中略)みんな助けを求めて叫んでいた」と、ポルティーリヨさんはAP通信に話した。 「私は生まれ変わった。神様が私に2度目のチャンスをくれた」 地震から数日がたってから、親族が生きているとの知らせを受ける家族もいる。 ロイター通信によると、アンデルソン・ダニエル・サルセドさん(22)は、カラカスの大学病院にいるところを親族に発見された。知らせを受けて母親が息子の元へ急いだところ、息子は両足の切断手術をすでに受けていた。 サルセドさんは、164便に乗せられる前、アメリカに3年住み、故郷に送金していた。強制送還され、地震のため2日近く、がれきの下に閉じ込められた。 「彼は穴の中に40時間もいた。身分証明書を持っていなくて、書類が何もなかったので、身元不明のままだった」と、祖母のマルレーネ・ロザーノさんはロイター通信に話した。 「私たちは、彼に連絡をとる方法がなくて、何も分からなかった」 「私たちは今、彼に力と勇気を与えてくれるよう神に祈っている」とも、ロザーノさんは話した。 「彼はもう前と同じではいられない。それは分かっている。両足を失ってしまったので。でも、私たちはありのままの彼を愛している」 (英語記事 The US deported them to Venezuela – hours later earthquakes struck)