7月に突入して気温が一気に上昇し、毎日とにかく暑い。こんなときはクーラーの効いた涼しい部屋でドラマ鑑賞するに限る。今夏も見逃せない話題作が目白押しだが、最も多くの“好き”を集めているのは、7月14日にスタートしたTBS火曜ドラマ『君の好きは無敵』だろう。 “好き”がよくわからない元コンサルのエース社員で、突然FIREして気ままな隙間バイト生活を送る草壁杏奈(松本若菜)と、“かわいい”への愛は人一倍だけど、偏屈で変人な訳ありキャラクターデザイナー瀬尾深月(佐野勇斗)が、世界的大人気キャラクターの誕生を目指す姿を描くラブコメディ。キャラクタービジネス業界を牽引する株式会社サンリオが取材協力していることでも大きな話題となっている本作だが、その最大の特徴は主人公たちがキャラ立ちしていること。特に佐野が演じる瀬尾は、初回放送を観ただけでも好きにならざるを得ない魅力的なキャラクターとなっている。 5人組ダンスボーカルユニット・M!LKの絶対的エースで、俳優としても活躍する佐野。昨年リリースした楽曲「イイじゃん」がSNSを中心に大バズりした末に『第67回 輝く!日本レコード大賞』で優秀作品賞を受賞し、年末の『NHK紅白歌合戦』にも初出場するなど、2025年は“M!LKの年”と言っても過言ではない一年となった。今年に入ってもその勢いは衰えることはなく、2月発売の両A面シングル「好きすぎて滅!」も社会現象級のヒットを記録しており、佐野は歌番組にバラエティにドラマに引っ張りだこだ。今やトレンドに敏感な若い世代のみならず、幅広い年齢層に「M!LKの佐野勇斗」として認識されていると言っていい。 にもかかわらず、彼の出演作を観ていると、ふと目の前の画面に映る佐野が「M!LKの佐野勇斗」であることを忘れてしまう瞬間がたびたび訪れる。本人もかつてインタビューで「もしかしたら演技をしている時は『佐野勇斗があまり存在していないのかもしれない』と思いました。良くも悪くも、後から『あれ、佐野だったんだ』って思われることも多い」(※1)と語っており、この感覚は筆者だけではないのだと思わされた。 俳優としての佐野はアイドルでいる時の華やかさやカリスマ性をいったん脇に置き、与えられた役にごく自然な形で身を投じる。例えば、『ひとりでしにたい』(NHK総合)の那須田優弥と、『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系)の林田大介。かたや人間関係においてこじらせている東大卒のエリートで、かたや闇バイトでの逮捕歴があるやんちゃな青年だ。髪色や扮装である程度は役のイメージを作れるとはいえ、これだけ180度異なるキャラクターだと、どちらかに「この役は合わないな」という感想が出てもおかしくはない。しかし、佐野は声の出し方一つ、走り方一つにしても、その役の生い立ちや性格から導き出される最適解を叩き出し、違和感を完全に消していく。気づけば、「M!LKの佐野勇斗」としての輪郭は消え、その人物そのものとして存在しているのだ。 那須田と林田は両極端だが、NHK連続テレビ小説『おむすび』で演じた不器用で実直な野球少年や、『マイダイアリー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で演じた恵まれた才能を持ちながらも影を落とした大学生など、役の振り幅は自由自在。声優初挑戦となった『トイ・ストーリー5』でもハイテンションでちょっぴりニヒルなスマーティー・パンツ役で驚異の憑依力を披露しており、改めてその稀有な存在感を世に示している。 きっと佐野は『君の好きは無敵』で演じる瀬尾と同様、自分が携わっているキャラクターへの愛情が強いのだろう。それを感じさせるのが、インタビューでの言葉。瀬尾を演じる上で意識していることについて聞かれた佐野は、「瀬尾は、“偏屈”という言葉だけでは片付けられないと思っていて。ただまっすぐに好きなものを追求して、自分の中では筋を通してやっていることが、周りからすると偏屈に見えてしまう。だからこそ、『キャラクターが好き』という気持ちを一番大事にしようと思いました」と語っている(※2)。瀬尾は偏屈で変人なキャラクターデザイナーという時点で、十分すぎるほどキャラが立っているが、一歩間違えれば、奇抜さだけを強調した、とってつけたような人物にもなりかねない。だが、佐野が深い解釈をもとに「キャラクターへの愛」という一本軸を敷いていることによって、突飛に見える振る舞いにも一貫性が生まれ、瀬尾が記号的な“変人キャラ”ではなく、好きなものに誰よりも誠実な人間として立ち上がるのだ。 瀬尾が大手キャラクター会社・MERRYを辞め、独立したのもキャラクターへの愛ゆえ。どんな苦境に立たされても自分の“好き”に背くことはせず、孤軍奮闘してきた瀬尾の第1話での涙に心を揺さぶられた視聴者は多かったのではないか。そこに現れた強力な助っ人・杏奈に反発しつつ、最後は言い負かされてしまう瀬尾の反抗期の子供みたいな可愛らしさも堪能しながら、2人の挑戦を応援したい。 参照 ※1. https://www.crank-in.net/trend/interview/179914/2 ※2. https://realsound.jp/movie/2026/07/post-2456499.html