被災地で犯罪が増えるって本当?どんな被害が起こる?善意のデマ拡散で加害者にも…知ってほしい災害の現実

被災地や避難所で窃盗などの犯罪が起こると聞いたことはありませんか?実際、被災地で犯罪は増えるのでしょうか?どんな犯罪が起こるのでしょうか?総合危機管理アドバイザーの三沢おりえさんに、被災地の犯罪について解説してもらいました。 「災害の後は、犯罪が増える」…よく聞く話です。 ところが警察白書を見ると、東日本大震災の後、被災した3県では刑法犯の認知件数が全体として減少しています。 増えるどころか、数字の上では減っている。では、災害後の被災地は安全だったのでしょうか。 いえいえ、そんな単純な話ではありません。 ◆数字に出る犯罪、出ない犯罪 犯罪の認知件数とは、警察が犯罪として把握した数です。 大きな災害が起きれば、通勤や通学は止まり、店も閉まります。そのため、自転車盗や万引きなど、普段の生活の中で起きていた犯罪の機会が減ったことは考えられます。 一方、住民は避難や安否確認、片付けに追われる中、財布からお金がなくなった、避難先で荷物を盗られた、知らない人から不快なことをされた。 被害に気づいても、警察へ届ける余裕がなかった人もいたはずです。統計が減ったからといって、被害に遭った人まで同じように減ったとは限りません。 犯罪そのものが減った部分と、届けられないまま数字に反映されなかった被害。その両方があると考える必要があります。 ◆私の100円は、どの統計にもない 個人的な体験になりますが、東日本大震災のとき、私が住んでいた地域では、約1カ月間断水が続きました。 家は無事だったため、在宅避難です。ただ、水が出ないので、少し離れた銭湯まで車で通いました。たくさんの人が外まで並び、順番が来ても脱衣所はすし詰めでした。 子どもの体をタオルで拭くためにしゃがんだ、ほんの一瞬です。 ロッカーを使うために100円を入れ、鍵を開けたときにドアの受け皿に戻ってきていた100円が、なくなっていました。 警察にも届けず、この被害はどの統計にも存在しません。 もちろん、100円と空き巣やその他の被害を、同じ重さで語るつもりはありません。 ただ、されど100円です。 断水がなければ、私はその銭湯へ行っていません。あれは、災害がなければ起きなかった被害です。 そして、「こんなときだからこそ助け合わなければ」と思っていた中で起きた小さな窃盗に、金額では測れない現実を突きつけられた気がしました。 その後、仕事を通じてさまざまな被害を耳にする中で、あのときの被災地には、統計に残らなかった犯罪がほかにも数多くあったのだろうと感じています。 ◆災害が起こらなければなかった被害 先ほど、被害が数字に反映されないことがあると書きましたが、災害が起きると、私の体験のように、日常では遭わなかった様々な犯罪被害に遭う可能性も生まれます。 まず、災害直後には、無人になった家や店舗を狙う窃盗が起こります。避難生活が始まれば、避難所での置き引きや車上狙いも起こります。 性暴力やDVも、過去の災害で実際に起きています。内閣府のガイドラインは、災害時は被害者が相談すること自体が難しく、声を上げられず、被害が潜在化する懸念がある、と明記しています。届けられないまま数字にならない。ここでも同じことが起きています。 さらに復旧が始まると、屋根の点検やブルーシートの設置、保険申請などを口実にした詐欺や悪質商法が近づいてきます。被災者を支えたいという善意を狙った義援金詐欺も起こります。 被害は、災害直後だけで終わりません。人が戻らない家や復旧途中の建物が残る限り、長期的な注意が必要です。実際、能登半島地震後の2025年、奥能登4市町の窃盗犯の認知件数は、地震前(2023年)の約2.9倍でした。災害が起きなければ被害に遭わなかった人が、天災の後に人災の被害者になる。 被災したうえに、もう一つの被害を受けることは、あまりにも理不尽です。 ◆デマを広げるのは、自分かもしれない もう一つ、災害時に急増するSNS上のデマや虚偽情報も、身近な問題です。これは決して他人事ではありません。 実は、NICT(情報通信研究機構)の分析によると、能登半島地震では、発災後24時間以内にXへ投稿された救助要請のうち、約1割がデマと推定されています。 実際に、被災者を装い、存在しない倒壊家屋から救助を求める虚偽の情報を投稿した男が、偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。 確かに、SNSの投稿が支援や救助につながることはあります。 ただ、その善意のリポストにも責任が伴うとしたら、どうでしょうか。 他人の投稿をそのままリポストした場合でも、内容によっては名誉毀損などの責任を問われ、損害賠償が認められた裁判例もあります。しかもその判決は、投稿した経緯や意図、目的、動機を問わないとしています。 「自分が書いたわけではない」「助けようと思って広げただけ」 それだけで、必ず責任を免れられるとは限らないのです。 誰かの悪意に自分の善意を利用されない、その意識を持つ必要があります。 ◆災害での被害者にならないため これから起きる災害でも、犯罪が必ず増えるとも、減るとも一概には言えません。 統計上の犯罪は減っていても、無人になった家への空き巣は増える。普段なら被害に遭わない人が被害に遭う。届け出るほどではないと諦めた被害、声を出せなかった被害は、数字にも残りません。 災害時は疲労や焦りが重なり、誰にでも普段なら見せない隙が生まれます。そこにつけ込む犯罪もあります。被災しなければ起こらなかった状況の中で、危険を過小評価しないことが、災害後の自分と家族を守る、いちばん現実的な備えだと思います。 三沢おりえ 総合危機管理アドバイザー。総合防犯設備士、防災士、危機管理士、元・硬式空手世界チャンピオン。

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