『名探偵コナン 隻眼の残像』とにかく小五郎がカッコいい “刑事ドラマ”の魅力溢れる傑作に

劇場版『名探偵コナン』シリーズの第28作目となる『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』が4月18日に公開。いつもながらの江戸川コナンの活躍に、正義を守ろうとする刑事や警察官の強い気持ちが感じ取れるストーリーが加わり、毛利小五郎のカッコよさも存分に堪能できる本格サスペンス&ミステリー映画になっている。 映画を観終えた人が劇場のロビーに出てグッズのアクリルスタンドを買おうとしたときに、真っ先に手に伸ばしたくなるのが毛利小五郎だと言ったら、本作の内容を感じ取ってもらえるだろうか。続くのが長野県警の大和敢助警部と上原由衣刑事、そして諸伏高明警部で、その後に公安の風見裕也がきて江戸川コナンや毛利蘭、安室透といった序列だ。 『名探偵コナン』のシリーズで主役のコナンや超人気キャラクターの安室がどうして下に来てしまうのか。それは、『隻眼の残像(フラッシュバック)』がとことん、正義を守り犯罪を許さない刑事や警察官の信念が溢れ出してくる映画になっているからだ。小五郎もいつものお調子もの的なイメージというより、優秀な刑事だったことを証明するところを見せてくれる。 映画は時間が少し前に遡ったところから始まる。長野県警の大和警部が雪山で銃を持っていた犯人を追っていて、犯人とは別の人物を目撃して避難を呼びかけたとき、ライフルで銃撃され、そのうえ雪崩にも襲われ行方知れずとなってしまう。TVシリーズの「死の館、赤い壁」(第558話〜第561話)に登場した大和が、頭に包帯を巻き杖をついた姿で登場したのは、このときに負った負傷の影響だが、誰に撃たれたのかも何が起こっていたのかも明らかにされていなかった。 『隻眼の残像(フラッシュバック)』では、ついにその事件の真相が明らかになる。そもそも「隻眼の残像(フラッシュバック)」というサブタイトルが、大和の脳裏に事件を解明する手がかりが残像のように記録されているのではないか、といったことを伺わせる。とはいえ単に長野で起こったひとつの事件を描くに止めていては、劇場版ならではのスケール感を持った物語にならない。映画では大和が襲われた事件も単なるピースのひとつに過ぎない大きな展開が繰り出されて、観る人を真相究明への興味へと引き込む。 大和や由衣、高明が活躍しそうな映画であることは分かったが、それでどうして小五郎推しの気持ちがグンと高まるのか? 続く展開で、刑事だったときの小五郎と警視庁で仲が良かった鮫谷浩二という警察官が、小五郎から大和が巻き込まれた事件について話を聞きたいと連絡してきた。2人は日比谷公園で会うことになり、コナンや蘭も付いていったその面会の場で事件が起こった。小五郎は犯人に迫るには大和が巻き込まれた長野の事件を解明する必要があると考え、動き出した。 「ついてくるな、遊びじゃねえんだ!」という、映画の予告編で使われていた小五郎のセリフは、このときのコナンに向かって吐かれたものだ。相次いで起こった警察官が巻き込まれ命を狙われるような事件の深刻さを、元刑事の小五郎は強く感じていたに違いない。だから、シリーズの主人公で見かけは子供でも頭脳は大人のスーパーヒーローでも、小五郎にとってはガキでしかないコナンを巻き込むわけにはいかないと考えた。 こうした小五郎のいつにないシリアスな態度からも、本作が本格的な刑事ドラマであり警察ドラマを描くものとして見せようとしたものだということが感じとれる。それは、長野で合流する大和や由衣、高明らと共に事件の究明に向けて動き出す展開から浮かんでくる、犯罪を許さず犯人の逮捕に全力を尽くそうとする小五郎や刑事たちの正義感からもうかかがえる。 同時に、安室や風見が所属する警察庁の公安が、国家のレベルから守ろうとしている正義の有り様も見えてきて、大人の社会の闇もはらんだ奥深さに触れられる。そうしたドラマには、コナンも高校生探偵の服部平次もライバルの怪盗キッドもあまり似つかわしくない。かといって「黒の組織」では存在が超国家的になってしまう。シリーズ第26作目の劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は「黒の組織」が絡むスリリングなドラマで楽しませてくれたが、今作は違う立ち位置にあるということだ。 だからといって、興行収入が158億円となって映画『名探偵コナン』シリーズの最高記録を達成した前作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』のような、怪盗キッドや平次といった人気キャラたちが競演し、ラブコメ的な要素も楽しめるファンムービー的な映画にもなっていない。興行収入をさらに伸ばしたいのなら、過去最高を記録した前作なりヒット作の傾向を踏襲すれば良い。そうしないのは、「黒の組織」や「赤井家」「怪盗キッド」「安室透」といったキャッチーな要素がなくても、『名探偵コナン』という作品にはいくらでも楽しみどころがあるという作り手の自信の表れだろう。

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