「陸配(ルーペイ)」とは、台湾人と結婚した中国大陸出身の配偶者を指す台湾の言葉。ネット名「亜亜(ヤヤ)」はその1人だ。彼女は中国版TikTok「抖音(ドウイン)」で「中国による台湾の武力統一にはもはや理由は必要ない」「五星紅旗が台湾中に広がるのが楽しみ」などと発言。台湾当局に居留許可を取り消され、退去命令と5年間の再居留申請不許可処分を受けた。彼女と同じ処分を受けた陸配はほかに2人いる。 陸配が退去処分を受けるのは、台湾では初だ。現在の頼清徳(ライ・チントー)政権は、かつての馬英九(マー・インチウ)政権の融和路線と正反対なのはもちろん、前任者の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権より中国大陸に妥協しない姿勢であることがはっきり分かる。 言論の自由を保障しない台湾は強権的なのだろうか? 「中華人民共和国は統一された国家であり、台湾はその不可分な一部である」と中国政府は主張する。2005年制定の反国家分裂法は、台湾独立を推進する行為を厳しく取り締まる。台湾人は中国政府から中国国民と見なされるため、「内部の反逆者」として厳しく処罰されるリスクが高い。 ■台湾の寛容さを利用する中国 台湾の民主活動家・李明哲(リー・ミンチョー)は以前、台湾のSNSで大陸の政治犯を人道的に応援した。李は17年3月にマカオ経由で広東省に入った後、中国当局に拘束され、国家政権転覆罪で5年間投獄された。台湾当局によると、24年7月までに中国で拘束された台湾人は少なくとも15人。中国政府は台湾独立派に最高刑の死刑を適用する指針も公表した。 中国政府の容赦ない対応と比べ、台湾に住む「陸配」らが台湾でいくら中国統一を主張しても、それだけでは逮捕・起訴されない。せいぜい社会から反発や議論を招くぐらいで、どんなにひどくても台湾から退去を命じられるだけだ。 中国政府や愛国者は台湾の寛容さを利用して、自国の利益やイデオロギーを広げている。今回の事件は、言論の自由の乱用に対する頼政権の反撃だろう。民主社会の自由は必ずしも無条件・無制限ではない。実際に中国軍がやって来たら自分たちがどうなるか、陸配たちは想像したことがないのだろう。 <ポイント> 让<五星紅旗>插遍台湾 「中国国旗を台湾に差しまくれ!」。風刺画のモチーフは中国のことわざ「葉公好龍」。龍の絵が大好きだった葉公が実際に龍を見たら逃げ出した故事に基づく。口先だけの意味。 陸配 台湾政府は1993年、台湾人と結婚した大陸出身者の居住を許可。コロナ禍で大きく減ったが、コロナ禍前の2012年には年間1万2000人の大陸出身者が台湾人と結婚していた。