川崎市川崎区で岡崎彩咲陽さん(20)の遺体が見つかった事件で、死体遺棄容疑で逮捕された元交際相手の白井秀征容疑者(27、写真)が、岡崎さんが行方不明になった昨年12月以降、神奈川県警に7回任意で聴取されていたことが4日、県警への取材で分かった。白井容疑者は「知らない」などと関与を否定していた。 県警によると、聴取は昨年12月~今年3月に実施。最後となった7回目の3月25日には、岡崎さんが訴えていたストーカー被害について、付きまといを認めた。その後、4月に入って出国し所在が分からなくなった。 県警は関係者の聴取を続け、白井容疑者から「付きまとった」という話もあったことから、ストーカー規制法違反容疑の要件を満たせると判断。4月30日に同容疑で白井容疑者の自宅を家宅捜索し、床下にあったバッグから遺体を発見した。岡崎さんと白井容疑者は別れと復縁を繰り返していたといい、県警は3日に「ストーカー被害の相談を受けていたとの認識はなかった」と説明した。 県警によると、岡崎さんが行方不明になった昨年12月20日以降、同月中に2回、今年1月中旬に1回、白井容疑者の自宅を確認。捜査令状がないため細部まで捜査できず、遺体を発見した部屋については、白井容疑者が「そこはやめてほしい」と捜査を拒否。この部屋では親族が食事をしており、床下の確認はできなかったという。 岡崎さんと判明した遺体には激しく焼かれたような痕があり、死後1カ月以上経過していた。白井容疑者宅に焼損の形跡がないことから、県警は白井容疑者が自宅とは別の場所で遺体を燃やした可能性があるとみて捜査している。白井容疑者は3日に米国から帰国し、県警が任意同行して逮捕した。「間違いありません」と容疑を認めており、岡崎さんの死亡への関与についても調べている。 ≪建設会社に勤務も無断欠勤多く事実上解雇 白井容疑者≫ 白井容疑者は、以前は川崎市内でとび職として働きながら、友人らとラップミュージックの活動をしていた。周囲は、優しい印象を持っていた一方、「けんかっ早い面がある」とも語った。 同じ地元の知人らによると、白井容疑者は川崎市で育ち、地元の建設工事会社に勤務していた。自分の話はあまりしないが、仕事の傍ら地元の友人らと音楽活動をしており「頑張りたい」と楽しそうに話していたという。一方、無断欠勤が多く、勤務態度を理由に事実上解雇という形で退職した。元同僚の男性は「仕事でいつも助けてもらっていた。自分には優しかったのに」と困惑気味に語った。 白井容疑者の母親と同級生という男性は「昔は祖母と暮らしていたと聞いていた」と話した。母親は白井容疑者が子供の頃に離婚し、米国へ移住。容疑者がSNSで「米国生まれ」と書いていたという情報もあるが、男性は「米国に母親がいたことも関係しているのでは」と話した。 【元警視庁刑事 吉川祐二氏】 事件を巡る県警の対応が、大きな注目を集めている。 県警が3度、容疑者宅を訪れたにもかかわらず遺体を発見できなかったことについて、元警視庁刑事の吉川祐二氏は「捜査令状がないと何をするにも立会人の了解が必要。立会人の言動に不審な点があってもその場では何もできない」と話し、やむを得ないとした。 ただ、被害者が行方不明となった昨年12月の段階で、家族から捜索願が出されていることなどを勘案すると「令状を請求して、出ないとも言い切れない」と指摘。21歳の女子大生が犠牲になった1999年の桶川ストーカー殺人事件同様「対応が後手に回った感は否めない」と話した。 「ストーカー被害の相談を受けていた認識はない」とする県警の見解には、被害者が9回にわたって電話で被害を訴えていたことなどから「ストーカー被害と取るのが普通」と対応に疑問符を付けた。被害届の取り下げなど、相談者側の主張がコロコロ変わる場合は対応も難しくなるが「“分かりました”ではなく、“なぜ?”と寄り添う姿勢も必要。今回のように、裏に脅迫があるようなケースもある」と指摘した。